国語研の窓

第26号(2006年1月1日発行)

第27回「ことば」フォーラム報告

第27回「伝え合いの言葉―コミュニケーションの意味―」

今年度3回目の「ことば」フォーラムが,北海道大学留学生センター(以下,北大留学生センター)との共催で,9月18日(日)午後,同大学学術交流会館・講堂で開催され,参加者は約130名でした。

当日は以下の3件の発表・発題がありました。

1 言葉で人とかかわり合う

熊谷智子が,『新「ことば」シリーズ18「伝え合いの言葉」』(国立国語研究所編集)の内容を踏まえながら,「言葉による人へのはたらきかけ」「目的を果たすこと,関係を保つこと」「集団づくりの言葉」「多様性とコミュニケーション」など,言葉で人とかかわり合うことの意味について言及しました。そして豊かな「伝え合いの言葉」のやりとりに向けて,「想像力」と「柔軟性」が重要であると指摘しました。

2 伝え合うということ―留学生の場合―

柳町智治氏(北大留学生センター)が,北大の留学生に対する日本語教育の現状を踏まえながら,センターの教室内での留学生の言語活動を「ウチ」,センターを出た後のそれを「ソト」と位置付け,「ウチ」「ソト」の環境の違い,必要な語彙(ごい),会話の違い等に焦点を当てながら,今後期待される留学生教育の在り方にも触れました。「ウチ」では主に「知識」があるかないかが重要だが,「ソト」では,モノ,非言語要素,空間・場面などが絡み合った要素に配慮しながら,いかにしてコミュニティの有能な一員であることを示せるかが重要であると指摘しました。

3 違いを知る,違いをたのしむ―言葉を通して関係性をつむぐために―

岡本能里子氏(東京国際大学)が,21世紀を生きぬくための日本語表現能力,伝え合う力とコミュニケーション能力,現在日本社会のコミュニケーション事情,日本社会の異文化性等に焦点を当てて,コミュニケーション上の問題点に言及しました。また,ことばの力を育(はぐく)む実践事例から,「個人として」かかわることや,キレずに,攻撃せずに,自己主張をすることの重要性について触れました。そして,違いを知る・楽しむこと,摩擦やせめぎ合いを通して他者の「声」の存在を受容しつつ自己の「声」をもつこと,さらには,文化の「間」に立つ心の余裕と想像力・創造力を持つことが重要であると指摘しました。

フォーラムの後半では,まず,会場からの質疑に対して発表者から応答が行われました。次に小林ミナ氏(北大留学生センター)が日本語教育の立場からコメントしました。そこでは,日本人母語話者と非母語話者(外国人)との違いについて触れながら,母語話者のコミュニケーション能力はそれほど一律なのか,母語話者の日本語はそれほど美しく豊かかという小林氏の問いかけをもとに,対話の相手の日本語(ことば)をわかろうとする「想像力」と「柔軟性」が重要であることを再確認しました。また,杉戸清樹(国語研究所長)からは,ひょっとしたら理解できないかもしれない,伝わっていないかもしれないと思うことの重要性,あきらめず,くじけずに(柔軟に,キレずに余裕を持って),コミュニティの一員として「分かろう,伝えよう」と努力することの肝要性について指摘がありました。その後,会場の皆さんとのやりとりも活発に行われ,改めて,伝え合いのためには「一歩立ち止まること」が重要であることが確認されました。

(野山 広)

第27回「伝え合いの言葉―コミュニケーションの意味―」

  第27回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/27/

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