国語研の窓

第26号(2006年1月1日発行)

ことばQ&A

「セレブ」とは?

質問

最近,しばしば使われ見聞きする「セレブ」とは何ですか。こういう新しい外来語をどう考えたらよいですか。

回答

「セレブ(celeb)」は著名人という意味の英語「セレブリティ(celebrity)」の省略形です。英語の辞書に,どちらも見出しとしてたてられています。

日本語では,「あの人はセレブなのに地下鉄に乗る。」「セレブ婚」「セレブな店」「セレブっぽい服」などと使われています。ここでは「有名人」という,もとの意味から発展して「成功者」「裕福な人」あるいは文脈によっては「芸能人」を意味したりしています。さらに,そういう人たちが身につけたり買ったりする「一流(品)」のことを指したり,その特徴である,「高級そうな」「高額そうな」といった日本語独特の解釈でしか理解できないような使い方さえも見受けられます。

外来語のような目新しい言葉や言い方が広まるのは,それまでに同じことを指す言葉がなかった,言い換えれば,今までの言葉では賄いきれないので,新しいものに飛びついたり,便利な言い方を取りいれたりする,というひとつの言語現象ともいえます。

言葉の意味・用法というのは,似ていても少し違うとか,あるいは同じ意味でも語種(この場合日本語と外来語)が違うとか,表記する文字種が違うなどすると,それはそれで別の意味や効果をもちます。まったく相似の別語は無く,いわば”似て非なるもの”を無限に使い分けるのです。しかもそれは意識・無意識を問わないことです。

さて「セレブ」をみずから使う人にはなんら抵抗も違和感もないでしょうが,活字や音声で溢(あふ)れてくるカタカナ語の一つとして,受けとるばかりの人もいます。目障りで聞きなれない印象や,最近とみに頻繁に使われると意識すると,何だこれは,という気持や,とりあえず合わせておこう,と見過ごす,あるいはいつしか自分も使ってしまう,という雪崩のような言語現象が進んでいるかもしれません。

「セレブ」とは便利な言葉だ,とするか,「セレブ」なんて決して使わない,と考えるかは,人それぞれです。もっとも,日常の言語生活では,まったくそういうことは考えないでいる人も多いでしょう。

国立国語研究所の外来語言い換え提案で扱っているのは,広報や白書で用いている専門用語で,わかりにくい外来語についてです。「セレブ」のように一般に急速に広まってしまった語については,今後も観察をかさねる必要があるでしょう。五十年後百年後にこの言葉がどうなっているか。評価はその命脈に委(ゆだ)ねるべきものと考えます。

(山田 貞雄)

※この欄は,当研究所に実際に寄せられた「ことば」に関する質問にもとづいています。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。