国語研の窓

第27号(2006年4月1日発行)

「ことば」フォーラム報告

第29回「コミュニケーションとは何か―伝え合いの言葉―」

第29回「ことば」フォーラムが,2月18日(土)午後,国語研究所・講堂で開催され,参加者は約160名でした。

第29回「コミュニケーションとは何か―伝え合いの言葉―」01

前半は,以下の3件の発表・発題がありました。

  1. 小池保氏(尚美学園大学,元NHK解説委員)は,「身も心ものびのびするコミュニケーションのススメ」と題し,アナウンサーとして大阪に赴任した際の経験を基にして,放送文化論の立場から,関西をはじめ,地域のことばの背後にある緩やかで,豊かな発想や精神性などに焦点を当てました。そして,相手との関係性・位置取り,細かい需要等を探る時には,あいまいでありながら,いざ何かを決定した後には,徹底して合理的に対応する姿勢などに着目し,ギスギスする論理性ではなく,「のびのびする合理性のあるコミュニケーション」について推奨しました。
  2. 清ルミ氏(常葉学園大学)は,「健全なコミュニケーションを模索して」と題し,EU諸国から仕事で来日した人々に対する日本語・日本文化の教授経験などを踏まえて,異文化コミュニケーションの立場から,<1>白黒つけないものの見方と婉曲(えんきょく)表現,<2>摩擦を恐れない不満表示などの重要性について焦点を当てました。具体的には,二元対立の世界にいるEUの人々が,万物同根という考え方の日本に来ると,「優しい気持ちになる」「自分が温かな心の持ち主だと思える」実態があることに触れました。一方,地域に定住する外国人が,「行けたらいきます」「間に合ってます」などの婉曲表現を習得したがっていることや,「怒り」「悲しさ」「クレーム」などの感情や不満の思いをうまく伝える方法を知りたがっている現状について触れ,「思い」を封じ込めず,表出が容認される地域社会づくりや健全なコミュニケーションを模索するには,<1>の見直しと<2>の容認が肝要であることを指摘しました。
  3. 箕口雅博氏(立教大学)は,「コラボレーションとコミュニケーション」と題し,コミュニティ心理学の立場から,学校カウンセリングの現場に焦点を当て,協働(コラボレーション)し,伝え合うための適切な環境を作る際の重要点を提示しました。具体的には,カウンセラーは個人と環境との適合を目指す「つなぎ役」であり,子ども個人の内面への接近だけでなく,個人を取り巻く環境に働きかけることの肝要性について言及しました。また,教師に家庭を訪問するように依頼したり,教師の子どもに対する理解の仕方や関わり方について共に考えたりして,専門家の立場から助言することが重要であることを述べました。

後半では,熊谷智子の司会でディスカッションが行われ,まず,会場からの質疑に対して発表者から応答が行われました。次に,杉戸清樹(国語研究所長)からコメントがあり,「あいまいさ」にはいらつかず,「せっかちさ」には怯(おび)えずカチンとこないことが肝要であり,くじけず,キレずに不満表示をしたり,コミュニティの一員として色々な立場の人と協働しながら「分かろう,伝えよう」と努力することが,角の取れた丸い関係性を構築することにもつながるであろうと指摘しました。

その後,発表者間のやりとりも活発に行われ,伝え合いのためには「一歩立ち止まること」で対話の相手のことばをわかろうとする「想像力」「柔軟性」と,「軽快なフットワーク」「緻密(ちみつ)なネットワーク」そして「少々のヘッドワーク」が重要であることが,改めて確認されました。

(野山 広)

第29回「コミュニケーションとは何か―伝え合いの言葉―」02

  第29回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/29/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。