第33号(2007年10月1日発行)
12年前の阪神淡路大震災では,外国人被災者に向けた英語での情報提供が発生から半日後に始まりました。しかし,英語がわからない外国人も多く,英語だけによる情報伝達には限界がありました。
経験上,災害発生後72時間が被災者の生死に強く関わっていることがわかっています。その間に,災害情報をすべての外国語で提供できればいいのですが,時々刻々と変化する被災情報を瞬時に多くの外国語に翻訳することはとても困難なことです。
そこで数年前から,ことばの異なる多くの在日外国人被災者に,できるだけ早く簡潔に災害情報を伝えるための方法として,「やさしい日本語」を使おうという提案がなされています。「やさしい日本語」は特別な日本語ではありません。「難しい語彙を使わない」「文の構造を簡単にする」「重要度が高い情報だけに絞り込む」「災害語彙にはやさしい日本語を添える」などの簡単なルールによって作り出される表現です。この提案は言語研究者やマスコミ・行政に携わる人たちを中心とした研究グループから発信されました。グループでは多くの外国人留学生の協力を得て「やさしい日本語」の有効性を実験により検証しています。
弘前公園に設置された案内板
地方自治体やNPOで,「やさしい日本語」を使って災害時の被害を最小限に食い止めようとする取り組みが始まっています。また,「やさしい日本語」をよりわかりやすいものにしようという研究も継続されています。語彙,文法,表現を充実させる取り組み,災害ニュースの読み方など音声による情報伝達の指針作成,パソコンによる「やさしい日本語」自動生成プログラムの開発など,一人でも多く外国人の命を救うため,このグループが中心となって,より豊かな「やさしい日本語」を育てる努力が行われています。
(米田 正人)
やさしい日本語:http://www2.kokken.go.jp/gensai/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。