第33号(2007年10月1日発行)
第14回国際シンポジウムは,2007年8月22日と23日の二日間にわたり,都心にある灘尾ホール(新霞ヶ関ビル)において開催されました。今回のテーマは,「世界の言語地理学」です。
両日,午前10時から午後5時までという長時間にわたるもので,しかも35度を超える酷暑の中での開催でしたが,二日間とも約120名の方々が参加され,熱心な議論が交わされました。
日本では,国立国語研究所が全国を対象として調査・編集・出版した『日本言語地図』『方言文法全国地図』のみならず,各地で400冊以上にのぼる言語地図集が作成されており,日本の言語地理学は質量ともに多くの成果をあげてきました。今回のシンポジウムは,世界各地の調査ならびに研究の状況を把握しながら,このような日本の成果が,世界的に見た場合,どのように位置づけられるのか,また,これから何が求められるのかを考える良い機会となりました。
シンポジウムの両日,それぞれにサブテーマを用意しました。初日は,「各地の言語地図作成状況」で,世界各地で言語地図が作成されてきている状況を把握することをねらいます。二日目は,「言語地図の活用方法」で,作成された言語地図の利用方法をめぐって議論します。
今回のテーマに合わせて研究発表を行ったのは,以下の方々です。( )の中には対象地域・所属を示しています。なお,日本は大西が担当しました。
また,サブテーマに合わせて,初日には真田信治氏(大阪大学)に「日本で編み出されたグロットグラム」,二日目にはハンス・グーブル氏(ザルツブルグ大学)に「Dialectometry(方言計測学)」と題した招待講演をお願いしました。
さらに,それぞれの発表・講演を整理するため,初日には福嶋秩子氏(県立新潟女子短期大学)から,二日目にはデビッド・ヒープ氏(西オンタリオ大学)からコメントをいただきました。
両日ともに,発表・講演・コメントをもとに,当日の登壇者全員による全体討論を1時間半かけて行うセッションを設けました。このセッションを通して,相互理解を深めるとともに,テーマ・サブテーマをめぐる議論を進め,また,壇上とフロアとの間での質疑応答も行うことで,シンポジウム参加者全員で,世界中の言語地理学に関する,個別の,また,普遍的な問題と方向を把握することをめざしました。とはいえ,シンポジウムだけでは,時間は十分ではありません。シンポジウム終了後も,会場を変えて,夜遅くまで,個別に議論や情報交換が続けられました。
世界各地の言語地理学者が集まるこのような大規模な会合が開催されたのは,日本では初めてのことです。今回のシンポジウムを通して,日本の言語地理学の成果を発信するとともに,世界中の言語地理学研究者の皆さんと研究情報のみならず人間同士の交流も行われ,有意義な二日間でした。同時に,世界の言語地理学をリードする役割が,日本の研究者に期待されていることをあらためて認識するに至った暑い夏でした。
(大西 拓一郎)
第14回(平成19年度)国際シンポジウム:http://www.kokken.go.jp/event/kokusai_sympo/14/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。