第34号(2008年1月1日発行)
今年度の「ことば」フォーラムは「映像作品から話しことばを考える」をテーマに東京と福岡で2回開催しました。
第32回は,6月30日(土)の午後,国立国語研究所(以下国語研)で開催しました。映像作品を広い視野でみて「ことば」を考える特別講演と二つの発表がありました。
品田雄吉氏(映画評論家・多摩美術大学名誉教授)が,『街の灯』(チャップリン),『晩春』(小津安二郎),『わらびのこう 蕨野行』(恩地日出夫),『しやべれどもしゃべれども』(平山秀幸)などの映画作品を取り上げ,日常的な会話,創造した架空の方言,言語と人間関係などの問題に焦点を当てつつ,映像(映画)とことばの関係や,その周辺について触れました。
その後,国語研で制作した「ことばビデオ」シリーズ第5巻『日本語の音声に耳を傾けると…』の上映と,国語研ホームページ上の「紹介用ビデオ」の紹介を行いました。休憩後,このビデオに関連して,「ことばビデオの情報源」というテーマで,尾崎喜光(国立国語研究所)がビデオの制作・普及は,研究成果を国民に分かりやすく伝えるという目的も持って行っていることを説明し,ビデオのもととなった調査データを紹介しました。また,調査方法,音声やアクセントの使い分けに関する調査結果・組み合わせについての興味深い現象について説明しました。また,そこから予想される映画・テレビドラマ・演劇に方言音声を取り入れる際の留意点等についても話しました。
次に,小河原義朗氏(北海道大学留学生センター)が,大学での日本語教育について概観しました。映像を使った日本語教育の現場で,日本語教師は映像をどの程度どのように活用しているのか,学習者は映像をどのように見ているのかについて,国語研究所の「学習環境調査」の事例や自身の現場経験などをもとに考察するとともに,「ことばビデオ」の利用について言及しました。
最後に,直接,会場からの質問を受け「読み解く力」や「表現意図」をキーワードにディスカッションを行いました。
第32回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/32/
第33回は,11月2日(金)午後,アクロス福岡(福岡市中央区天神)で開催しました。当日は,所長あいさつ,趣旨説明の後,三つの発表とディスカッションがありました。
中神智文氏(福岡県立朝倉高等学校)が「国語教育の現場での活用を考える」というテーマで,自身の高校での小説教材の活用に触れ,「ことばビデオ」第5巻の活用や朗読テープ聞き分けの授業風景,こうした活動後の生徒の感想を紹介しました。
次に,清ルミ氏(常葉学園大学)が,日本語教育の現場(外国人対象,日本人学生対象,日本語教師養成課程・受講者対象)を概観した後,各対象に対する自身の教育実践を紹介しました。言語表現(「NHK新にほんごでくらそう」),パラ言語=副言語(「ことばビデオ」第5巻第1話「気持ちや意図を伝える音声」),非言語(映画2本)に着目し,コミュニケーションの実態と映像の関係について言及しました。
3人目に,杉戸清樹(国立国語研究所長)が,映像はどんなものごとを伝えるのか?について言及しました。具体的には,映像作品の可能性に焦点を当て,「言葉を用いたコミュニケーションで,言葉以外のものごとも,多く伝えていること」「そのことにあらためて気が付き,考えるきっかけを映像が与えてくれること」を提示しました。
休憩後,質疑応答,ディスカッションがあり,副言語(声の調子,イントネーション等),非言語(身体動作,距離等)を含むコミュニケーションの重要性を再認識しました。映像作品を広範な現場で活用していくためには,今後,Viewing(見ること)という学習・指導の領域・科目に注目することや作品内容,活用・入手方法の周知,広報の工夫の充実を図ることなどが肝要であることが確認されました。
(野山 広)
第33回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/33/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。