国語研の窓

第36号(2008年7月1日発行)

デジタルマップになった『日本言語地図』

国立国語研究所が調査・編集した『日本言語地図』が,インターネットポータルサイト Yahoo! JAPANの中で, Web版デジタルマップになって登場しました (特集「ご当地万歳!」,掲載期間: 2008年 4月 16日~ 6月 15日,現在は掲載終了)。

『日本言語地図』(全 6巻,1966~ 1974年,大蔵省印刷局刊)は,「かたつむり」「つらら」「大きい」など 260のことばについて,全国の方言を収集し,地図化したものです。調査は, 1957(昭和 32)年から 1965(昭和 40)年にかけて,全国 2400地点で行われました。方言の話し手は, 1903(明治 36)年以前に生まれた各地生え抜きの方々です。ここには,共通語の影響が今のように及ばなかった時代の,全国的な方言の状況が記録されています。

今回はこの中から,「ものもらい」の方言地図がデジタルマップ化されました。「ものもらい」は,目の縁にぷつっとできる小さなできもののことですが,若い人たちの会話の中でも,時に,地域による違いが話題になることばだといいます。デジタルマップ化には,「日本語情報資料館:『日本言語地図』データベース」(http://www.kokken.go.jp/lajdb/)で公開されている電子化データを使用しました。

この Web版デジタルマップシステムには,紙媒体の出版物にはない,いろいろな機能が付加されています。とりわけ大きな特徴は,閲覧者が, Web上の地図の自分が選んだ地点に,自分の知っている方言を,自分で書き込むことができる,という点です。こうして新たに書き込まれた情報は,『日本言語地図』から 50年後の現在の方言の状況を示すことになります。また,最も多く回答された方言形は「メバチコ」で,近畿地方を中心に分布している,といったことも一目でわかります。

国立国語研究所では,この取り組みを,日本全国の広い地域の多くの人たちから,日本語の使用実態や言語意識について,迅速にデータを収集するための手法開発のテストケースと位置付け,インターネットの分野で高い技術力を持つヤフー株式会社と連携して研究を行ってきました。

この特集では同時に,国立国語研究所の過去の言語生活調査で行ったのと同じ,言語意識に関するアンケート調査も実施しました。実は,このような Web調査は,書き込んだ人の言語的背景が十分に把握できないなど,言語調査としての問題点も指摘されています。エンターテインメントの要素も加味した Webサイトで迅速に大量のデータを収集することと,学術研究目的での利用に堪えるデータの質を確保すること─ その両立については,収集したデータの分析とともに今後の課題と言えるでしょう。

(三井 はるみ)

Web版デジタルマップ「ものもらい」の全国表示画面と地域表示画面
Web版デジタルマップ「ものもらい」の全国表示画面と地域表示画面

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。