国語研の窓

第37号(2008年10月1日発行)

文字さんぽ

愛知県岡崎市は石工の町としても知られています。周辺で採れる質のよい花崗(かこう)岩を使い,古くから石工品を産出しています。

市街地の花崗(みかげ)町には,十数軒の石材店が軒を並べています。「材」の字に注目しながら石材店の看板を見ていくと,3種類の「材」があることに気がつきます。

(1)  材01

(2)  材02

(3)  材03

(1)は,国語の時間に教わる普通の「材」です。(2)は,旁(つくり)が「材」になっている「材」です。(3)は,(2)の字体に点が一つ増えて,「戈」になっている「材」です。

(2)の字体は鎌倉時代の観智院本(かんちいんぼん)『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)』などの古辞書にも使われています。筆写字体として古くから使われてきたものです。「才」を「材」と書く事例があることを参考にすると,(1)の字体から(2)の字体が派生したのではないかと推測されます。

また,(3)の字体は,「丈」に対して「材」,「土」に対して「材」のように,書法上の安定性を持たせるための点が付加されたものか,あるいは,「戈」や「伐」からの類推によって発生した字体と考えられます。(1)の字体から直接(3)の字体が派生したのではなく,(2)の字体から(3)の字体が派生したと考えるのが妥当でしょう。

石材店に使われる「材」の異体字の派生関係をまとめると,字体(1)「材」→字体(2)「材」→字体(3)「材」の順に変化していったと推測されます。

さて,「材」や「材」は,岡崎市の石材店だけではなく,全国の石材店で見ることができます。また,石材店だけでなく木材店の看板でも,これらの字体が使われています(写真1・写真2参照)。現在では,「材」や「材」は,建築・加工のための資材を扱う業種において特有の文字になりつつある可能性があります。

(高田 智和)

写真1
写真1
写真2
写真2

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。