国語研の窓

第38号(2009年1月1日発行)

「ことば」フォーラム報告

第34回「敬語と方言 ― ふるさとのことば ― 」

後援:岡崎市・岡崎市教育委員会・NHK名古屋放送局・中日新聞社・東海愛知新聞社

第34回「ことば」フォーラムが平成20年10月17日(金)午後,愛知県岡崎市の市民会館集会室で開催されました。参加者は約100名でした。

前半は,杉戸清樹(国立国語研究所長)による講演,「方言の中の敬語」がありました。杉戸は名古屋市出身。名古屋の尾張方言と岡崎の三河方言との違いや,暮らしの中で「方言敬語」が必要とされる場面などについて具体的な説明がありました。そして,国立国語研究所が愛知県岡崎市で昭和28年と47年に敬語調査をおこなったことと,その3回目の調査が 11月に予定されているので岡崎市民の皆さんにご協力をお願いしたいことが述べられました。

後半は,杉戸清樹の司会で「敬語と方言について」のトークショーがあり,3名の登壇者から次のような話題が出されました。

(1)梅津正樹氏(NHKアナウンサー)は,「気になることば」(総合テレビ・ラジオ第1)や「ナットク日本語塾」(教育テレビ)に登場する「ことばおじさん」としてよく知られています。佐賀・室蘭・広島・京都・大阪・鳥取・東京の各局に赴任した体験をもとに,方言が持つ魅力についての説明がありました。たとえば,大阪放送局時代の話で,河内地方では初めての訪問で「ごめんください」と声をかけると取材に応じてもらえないことがあったとのこと。その場合は「おるかい」と言えばよいそうです。また,敬語に対する大学生の関心の高さなどについても解説がありました。

第34回「敬語と方言 ― ふるさとのことば ― 」01

(2)阿南 愛氏(ヤフー株式会社)は,岡崎市北部の細川町出身で高校卒業まで岡崎市で過ごしました。ヤフー株式会社で江戸時代,明治時代などの古地図を現代地図と重ね合わせてネットで見られるサービスを担当している経験にもとづき,平成20年から「ご当地万歳」サービスの一つとして国立国語研究所の日本言語地図のデータを利用して「ものもらい方言マップ」をインターネットに公開しています。その方言マップをスクリーンに投影しながら古地図と重ね合わせてみるなど,紙では実現できない操作性の実演があり,新たな発見の可能性が示されました。

(3)井上文子(国立国語研究所)は,国立国語研究所の「日本言語地図」全6集と,「方言文法全国地図」全6集について,説明をおこないました。

続いて登壇者全員での討論があり,岡崎市での敬語調査のように同じ地域の言葉を50年以上の長期間にわたって追跡調査するのは世界にも例がないことが紹介されました。また,「現在,どのように言葉が使われているのかをきちんと記録し,後世に伝えることはたいへん大事なことだ」という意見が出ました。

(横山 詔一)

第34回「敬語と方言 ― ふるさとのことば ― 」02

  第34回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/34/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。