国語研の窓

第39号(2009年4月1日発行)

研究室から:日本に暮らす外国人の日本語学習の環境改善をめざして

-学習項目グループの取り組み-

在住外国人の増加

「国語研の窓」をお読みのみなさんのほとんどは,現在,日本で生活をしている方々だろうと思います。その前提で話を進めますが,みなさんは,この数年の間に,日常生活の中で接する外国人が増えたような気がしませんか。たとえば東京では,電車に乗っていても,街を歩いていても,毎日のように外国人を見かけます。また,姿を見ることが仮になかったとしても,実は,携帯,テレビ,車などを作る工場で仕事をしている外国人も少なくありません。海外からの介護士・看護師の受け入れも進んでいますので,日本の社会は外国からやってきた人々によってかなりの部分を支えられているのです。

現在,日本には約215万3千人(2007年12月末の外国人登録者数,法務省調べ)の外国人がいます。これは,日本の人口の1.69%にあたります。日本に住む外国人の数は年々増加の傾向にあり,今後も減ることはないと言われています。

在住外国人の日本語学習支援における課題

では,日本に暮らす外国人の日本語はどうでしょうか。流暢(りゅうちょう)に日本語を使いこなす人がいる一方で,日本に10年以上暮らしているのに,自己紹介程度の日本語しかできない,という人もいます。同国人の多い地域に住み,職場では日本語能力が特に求められず,日々,自宅と職場の往復をしている,そのため,日本語を使う必要もなく,学習する機会も持たないまま,何年もすごしているという人がいるのです。こういった人たちは,日本社会に関する知識を十分に持たない場合も少なくなく,その結果,災害や病気といった状況の際に,迅速な対応ができないという事態に陥る恐れもあります。

このような状況を生み出した原因の一つに,日本の社会が,就労や結婚のために来日した外国人に対し,日本語や日本に関する学習の機会を保障してこなかったこと,学習の動機付けをし,学習を促進するような環境を整備してこなかったことが挙げられます。日本語が使われている環境にいれば,日本語は覚えられると考えられがちですが,基礎的な日本語も知らない人にとっては,日本語が使われている環境の中に身を投じ,ちょっとした用事を足すことすら困難です。にもかかわらず,こういった人たちに対する日本語教育は,主に地域のボランティアによる日本語教室に任され,学習の保障はなされませんでした。

また,生活や社会に焦点を当てた教材があまりないこと,その教材を作成する際に必要となる,学習項目あるいは学習目標の一覧がないことも大きな問題です。一覧があれば,教材開発の助けになるでしょうし,学習者自身が学習の計画を立てる際の拠り所とすることが可能です。

課題を解決するために

以上のような発想で,日本語教育基盤情報センター学習項目グループは,「日本語教育における学習項目一覧及び段階的目標基準の開発」というプロジェクトを立ち上げ,これまでの3年間,「生活のための日本語とは何か」を明らかにするという課題に取り組んできました。

課題追求のため,私たちは大きく二つのことを実施してきました。一つは,移民の受け入れの歴史が長い国々で,「生活のための言葉」はどう捉えられているかを調べることです。その中には,日本国内のもの,長年の調査研究及び教育実践によって培われた中国帰国者向けの日本語教育なども含めました。もう一つは,外国人がどういった場面でどんな日本語を使っているのか,どういった日本語を学びたいと思っているのかを調べることです。これらにより,最終的には下に示したような一覧を作成することを計画しています。

「生活のための日本語」

尚,このプロジェクトの成果は,文化庁文化審議会国語分会日本語教育小委員会が2009年1月に指針として発表した「『生活者としての外国人』に対する日本語教育の目標及び標準的な内容」にすでに生かされています。

(金田 智子)

  調査研究事業 「日本語教育における学習項目一覧と段階的目標基準の開発」について:http://www.kokken.go.jp/katsudo/seika/nihongo_syllabus/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。