第39号(2009年4月1日発行)
国立国語研究所「病院の言葉」委員会(委員長:杉戸清樹所長)は,患者にとって分かりにくい「病院の言葉」を分かりやすく伝える工夫を,医療者に対して提案しています。この「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」については,昨年10月に中間報告を発表した際に,その概要について紹介しました(本紙第38号)。
医療の専門家と言葉の専門家とからなる委員会では,まず,医療者や国民一般を対象とした意識調査を行って,医療者から患者への説明に用いられる言葉が伝わらない原因を探りました。そして,その原因に応じて分かりやすい言葉遣いを行う工夫の方法を,下の三種五類に類型化しました。各類型を代表できる言葉を全部で57語選び,患者に伝わりやすい説明の工夫や注意点を,事例として示しました。
中間報告には約900件の意見が寄せられましたが,その多くは,提案の方向や枠組みに賛同するもので,95%以上の人が提案は参考になると回答しました。中には,細部の記述に改善案を示すものもあり,それらは委員会で再検討して,より分かりやすくなるように修正しました。その結果を最終報告として,この3月に発表しました。
最終報告書は,意見を寄せてくれた機関や個人に送付し,ホームページでも公表しましたが,より多くの医療者や,医療の言葉に関心を持つ人たちに提案を役立ててもらうには,書籍にして市販することが効果的だと考えました。最終報告書をまとめる作業と並行して,提案内容に基づきながら,独自の企画も加えた書籍『病院の言葉を分かりやすく―工夫の提案―』の編集作業を進め,最終報告の発表と同時に刊行しました。
この本は,提案で取り上げた57語の工夫の例を,見開き2ページから4ページ程度の,見やすいデザインにまとめました。そして,紙面の随所に,患者への説明に用いることのできる挿絵や,患者とのコミュニケーションに役立つコラムを,入れました。これは,中間報告に対する意見公募のアンケートで,提案をよりよいものにするにはどうすればよいか,という質問を行ったところ,挿絵を入れてほしい,コミュニケーションの問題を取り上げてほしいという要望が特に多かったことを踏まえたものです。挿絵は14箇所,コラムは30編になり,委員が分担したり共同したりして作成と執筆にあたりました。コラムの表題をいくつか挙げると,次の通りです。
この本は,まず誰よりも医療者に読んでいただきたいものです。患者に説明したり,患者向けの文書を書いたりするときに,この本に示す類型とその事例を参考に,多様な医療場面,多様な患者,多様な言葉に応用して,医療者一人一人が言葉遣いを工夫してほしいと願います。そして,患者やその家族など,一般の人にとっても十分理解できる内容ですので,医療における言葉やコミュニケーションに関心のある人々にも,広く読まれれば幸いです。
(田中 牧郎)
編著者:国立国語研究所「病院の言葉」委員会
出版社:勁草書房
2009年3月,A5判264ページ,税込2,100円
問い合わせ先:勁草書房03-3814-6861
「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」ホームページ:http://www2.ninjal.ac.jp/byoin/teian/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。