第40号(2009年7月1日発行)
先ごろ《女子児童・生徒の約3割が「おまえ,いいかげんにしろよ!」を使う》という調査結果が発表されました(旺文社・平成21年4月)。「3割もいるのか」と驚いていた矢先,駅で女子学生が「オレ,精算してくらぁー」と大声で言うのを聞いて耳を疑いました。
一般に,オレという言葉は,男性が私的で砕けた場面で使う―そう考えられているのではないでしょうか。私自身その話者と場所とに似つかわしくないと感じました。
その一方で,日常会話や小説などでは,オレという言葉を使わないとしっくりこない場面があることも否定できません。オレという言葉は《おれ》《オレ》《俺》など幾つかの表記がありますが,文字によって受ける印象も変わってきます。
ところで,《俺》という漢字は現在の常用漢字表には入っていません。文化審議会国語分科会は平成21年1月に,現在1945字ある常用漢字から5字削除し,新たに191字追加するという新常用漢字表の試案を出しました。その191字の一つに《俺》という漢字が入っています。
新常用漢字表の審議では,《俺》について,「公的な表記のための常用漢字として不適切」,「実際の暮らしの中でよく使われているという事実を重視すべきだ」など,なかなか意見の一致を見ませんでした。
こうした中,国立国語研究所は現在構築中の言語コーパス(データベース)を用いた調査を国語分科会に提供しました。この調査からは,一般書籍の中でオレという言葉を書き表すときは約6割が漢字《俺》を使うことが分かりました。
6割という数字が多いか少ないかは立場によって判断の揺れるところでしょう。しかし,客観的なデータが提示されたことにより,新たな視点から再度審議が行われ,新常用漢字表の試案に《俺》を入れることになりました。
言葉に対しての思いは,時によって思い入れにも思い込みにもなります。言葉の専門機関による客観的なデータはこれからも国語施策に欠かせないものになっていくことでしょう。
(斎藤 達哉)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。