第40号(2009年7月1日発行)
日本語教育基盤情報センター整備普及グループでは,日本語・日本語教育研究の充実,共同研究,連携・協働活動の拡充等を目標に,日本語教育データベースの構築を行っています。このデータベース作りの背景には,海外から移動してきて地域に定住する者(日本語非母語話者)の増加や,その増加に伴う,定住外国人の言語環境整備促進の必要性などがあります。
このデータベース作りの一環で,基盤情報の一つとして,OPI(Oral Proficiency Interview)という口頭能力をインタビューで測定する方法を活用した日本語学習者会話データの収集,整備を行っています。このプロジェクトでは,多数(300人以上)の横断(異なる対象者を大量に調査した)データとともに,少数(約20人)の縦断(同一の対象者を定期的に調査した)データも収集しています。
OPIは,全米外国語教育協会(ACTFL)が開発した,どの言語にも用いることができる会話能力テストです。近年,日本においてもその試験官の資格を取得したテスター数が増えてきており,さまざまな日本語教育の現場における学習効果の評価に活用されつつあります。例えば,地域生活において,場に応じた適切な会話ができることは重要なことです。学習者の会話能力を的確に把握し,その情報をデータベース化することは,多様な学習者の状況に応じた柔軟な学習支援プログラムを作成し,充実・発展させていくためにも,欠かせない基盤情報となるでしょう。
この調査においては,日本語使用者(学習者)の日本語運用能力の正確な把握のために,彼らの言語生活や環境を広く考慮しつつ,OPIテストの被験者に,判定結果を伝えるだけでなく,できる限り学習の参考になるようなコメントをフィードバックしながら,最終的に,地域日本語学習支援の現場により適した教育内容や方法を協働で追究・開発できるような基盤・体制作りを目指してきました。
ここでは,同一の対象者を定期的に調査した「縦断調査」について,以下の二つの調査データからみえてきたことを中心にお伝えします。
(1)関東地方の外国人集住地域(A県B町周辺)に居住し,主としてC校に在学する(在学した)高校生の日本語学習者(約10人)を対象に,平成20年2月と21年2月に調査。
(2)東北地方の外国人分散地域(D県E市周辺)に住む外国人配偶者を中心とする日本語学習者(約10人)を対象に,平成19年9月と20年9月に調査。
この調査で得られたOPIの録音データ(約30分×20×2=約1200分)や文字化資料(日本語学習者会話データ)に見られる言語的特徴,話題の特徴,地域での言語生活や学習環境がもたらす方略(有効・適切と考えられる会話方法や工夫)などについて紹介します。
会話の特徴としては,以下の点が挙げられます。集住地域では,「敬語(スピーチレベル)の適切な理解の困難さ」や「外国にルーツをもつ高校生の言語生活・環境,および彼/彼女本人の関心がもたらす語彙や話題の独特さ」などが,また,分散地域では,「言い切りの形の有無(無い人が多い)」「声真似による引用(直接話法と省略)の多さ」「地域方言と社会方言の多さ(地域特有のインプットの多さ)」などです。
集住地域・分散地域の共通する特徴としては,「地域の言語生活・環境がもたらす話題の展開(の多さ)」や「形成的評価とフィードバックの作業を現場の関係者と協働で行った結果が,2年目のテスト結果にプラスに反映した」ということです。
統語的・文化的に異なる言語規範を持つ,母語話者と非母語話者の共同作業である会話(コミュニケーション)をより実質的な交流としていくためには,今後ますます地域の状況に応じたプログラム作りを行っていく必要があります。これまでの成果やデータが,より有効な形で活用される可能性を探りつつ,データそのものをいかに充実させるかについても追究していきたいと思います。
研究成果については,以下のWebページをご参照ください。
http://www.kokken.go.jp/nknet
(野山 広)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。