仕事で「0歳児」を「ゼロ-サイ-ジ」と読んでいますが、或る人が、電話番号や郵便番号などの数字を読み上げるときは「ゼロ」ではなく「レイ」の方が正式だ、と言った、と聞きました。ということは「レイ-サイ-ジ」の方がよいのでしょうか。
NHK放送文化研究所編『NHK ことばのハンドブック』では、数字単独で読む、整数としての『0』は『レイ』であると基準を表中に明記しています。ただし「注1」で、「『無い』ということを強調する場合、および固有の読みが決まっている場合は、〔ゼロ〕と言ってもよい。」としています。その筆頭が、この「ゼロ歳児」の語例です。一緒に挙げている「ゼロシーリング」とともに、「固有の読みが決まっている」例と読み取れます。これらがいわば「ゆれる」ことなく、実際どちらも同じくらいに定着した語形かどうか、はさておいて、放送上の規範は、ここで示されています。
また、数学の分野での「0」の概念について書いた有名な一般書の書名は『零の発見』という本ですが、図書館で扱う書誌情報では、漢字の表題を「ゼロ-の-はっけん」としています。ここでは単なる数値や数字としてではなく、概念としての「ゼロ」であるので、上のハンドブックを借りていえば、「『無い』ことを強調する場合」に限りなく近いといえるかもしれません。
さて、国立国語研究所で電話応答の最中に、質問者から電話番号を伺う場合、大抵「ゼロ」と言われるのを聞き取ります。が、こちらからお知らせする場合には、外来語の「ゼロ」をはさまずに、最初は漢語「レイ」で言うように統一しています。これは、いわば「ワン」や「アン」、「イー」などの数字の外国語形を、和漢の数字の語に混ぜて使うことがない、ということから、和漢の読みで通す、という理由あってのことです。しかし、聞こえの印象は「レイ」より「ゼロ」の方が確実です。正確に伝達することを旨として言い直す場合には「ゼロ」を用いて、いわば和漢の読み方を重複する「文選読み」のように、しばしば両様を連続して、復唱するようにしています。