ことばの疑問

「大きい」「高い」「強い」

2015.04.30 山田貞雄

質問

「可能性」が「高い」という表現と、「大きい」という表現、さらには、「強い」という表現も見られます。自分では意識せずにどれかを使ってしまっていますが、何か違いや決まりはあるでしょうか。

回答

「可能性」ばかりではなく、「意識」(高い・強い)、あるいは「依存(性)」(高い・強い)なども、その形容詞に何を使えばよいか迷ったり、現実の文章にいろいろあったりして、同じことなのか、別のことなのか、その意味内容についても判断を迷う、などという問い合わせがあります。

このことを言語学では、コロケーションといったりします。言い換えれば、「それぞれの言葉(語彙)が文章を作るとき、きまって親しく付き合う仲間の言葉」といったらよいでしょうか。ここでは、「可能性」の場合には、「高い」も「大きい」もどちらもいう(共起)ことがあります。また、このようなことは、上のような抽象的な事柄だけではなく、「隙間」(広い・大きい)や「騒音」(大きい・強い)、「平均寿命」(高い・長い)など、身近な物事や現象についても、同じような「言葉仲間」の関係がみられます。

これらの言葉仲間の相手選びの様子については、現代では、国立国語研究所の進めている、コーパス言語学(大量の電子言語情報を駆使して、客観的に言語使用の特質を観察・分析しようとすること。)の研究分野で以下のように、すすみつつあります。 このいわば「親しく付き合う言葉仲間の顔ぶれ」は、時代や年代によって異なる、ということがあります。(例:「効果」は従来「大きい」と仲がよかったのですが、最近では主に若い世代で、「高い」とも仲良しに使われる。) またたとえば、同じように「確率」の概念を表す言葉でも、「可能性」の場合は「高い」とも「大きい」とも、どちらともお付き合いがあります。が、「頻度」となると「高い」としか付き合わず、「確率」の場合は「高い」がより多く、「恐れ」の場合は「大きい」の方が優勢、といったように、語ごとに相手を選ぶ癖があることもわかっています。

このようなことは、たとえば「密度」に「高い」をつかってよいだろうか、とか、「環境への配慮」は「高い」といえるだろうか、などということがらにも解決の一助となるでしょう。これは、反対に「高い」という言葉はどういうときに、どういう状況を物語る役割をしてくれるのか、といった観点でも有益な情報を提供してくれます。 ここでは、前者は「数値」あるいは「度合い」、後者は「度合い」あるいは「程度」などという言葉を挟んで考えてみると、より明解に、どちらも「高い」といえる、と判断がつきやすくなるのではないでしょうか。

書いた人

山田貞雄

YAMADA Sadao
やまだ さだお●伝統的な日本語学(旧国語学)を勉強したのち、旧図書館情報大学では、写本と版本の二種によって、『竹取物語』を読みとく授業や、留学生のための日本語・日本事情を担当。その後、国語研究所では、「ことば(国語・日本語・言語)」に関する質問に回答してきました。日常の言語生活や個々人の言語感覚が、「ことば」のストレスにどう関わるか、そこに “言語の科学”は、どこまで貢献できるか、が、目下最大の興味の的です。