番組制作会社で仕事をしています。これから放映するクイズ番組を企画しています。国語の語源や由来をインターネットで集めましたが、その真偽を国立国語研究所で明らかにして、保証してくれませんか。
結論からいえば、国立国語研究所は、語源や由来の説の、いわゆる「裏どり」には応じません。それには大きく二つの理由があります。
その一つは、語源や由来ばかりではなく、番組制作やウェブ発信といった事業者の方に対して、国語研究所の電話による質問応答は、(1)調査の代行 (2)制作上の判断 (3)番組等の監修 の、いずれをも行ないません。これは、一種の行政サービスとしての質問応答そのものの、公平を図り、その範囲を越えないためです。
二つ目には、そもそも、現代の言語の科学としての日本語学にとって、語源論は、その中心的な研究対象や範疇に入らない、と考えるからです。近世までの国語学者や国文学者あるいは民俗学者は、考証学や方言学を展開する過程などで、かなり広範な語源論を展開しています。いわば諸説が出そろった感さえあります。最初の近代国語辞書『言海』の編著者だった大槻文彦も、その辞書の中で語源に関する自説を紹介しています。しかし、その後の近現代の辞書類では、新たな語源説を展開したり、従来言われている説の真偽や優劣を論じたりすることは、ほとんどありません。それらが必ずしも科学の対象になり得ない、という論理上の限界を考えているからでしょう。
一方、語源や由来というのは、落語の落ちや、昔話の結びにも出てくることがあります。そのような民間語源譚たんを含め、多くの人の興味や話題を提供し、それらを語り継いだり、時には、教訓を与えたりしたことも事実でしょう。しかしこれは、言語そのものの科学的な解明を目的とする学問というより、言語にまつわる文化伝承の世界といえます。
なお、従来の語源説を典拠とともに広範に整理している資料としては、まず、小学館『日本国語大辞典第2版』があります。そこに語源欄の記載があれば、手近でわかりやすく、しかも典拠を示しているので、引用にも適当といえるでしょう。また、大槻が行ったのと同じような意味で、言語研究の過程で発想された自説を紹介する学者、たとえば、新村出の著作にも、その典型は見て取れます。
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