ことばの疑問

「歳」と「才」の違い

2015.04.27 山田貞雄

質問

人の年の数を表すとき、「○○歳」とも「○○才」とも書きますが、違いはありますか。

回答

公用文では「才」を用いず「歳」を用いるように、と勧めている自治体もみられます。これには、相応の理由が考えられます。そもそも漢字「才」には「歳」と同じ意味があるわけではありません。しかも「才」と「歳」が完全な「通用」の関係にあるものではなく、あくまで年齢を書き表す場合にだけ、代用が広まっているのです。ですから「歳」とするところをすべて「才」としても通じる、とはなりません。「才費」や「才末助け合い」としたら、間違っているとだれしも直すでしょう。

あるとき、テレビの生放送の関係者から質問を受けました。身の上相談のような番組で、電話で参加する人の話の要点を、司会者がその場でホワイトボードに書きあげていくのです。関係者に年齢を添えるのに、「○○才」としたら、視聴者から「○○歳」とすべきだ、と意見をいただいた、というのです。

かつて文化庁は、『言葉に関する問答集』で「その普及度・慣用度から見て、少なくとも便宜的には一応認められるものであろう。ただし正式には…」としています。テレビの身の上相談の書き抜きや、クイズの応募はがきは≪正式ではない≫、しかし免許の書き換えや、市町村に出す各種の申請書は≪正式だ≫、とその都度、判断する余地を残しています。唯一で絶対の表記の決まりや規則を明文化していない、という点では、不満や不備を指摘する向きもありましょう。しかし、これは言語の「ゆれ」という特質に最もかなっているとも考えられます。

話はすこし飛躍しますが、近年、結婚式とその披露宴での服装のプロトコル(儀式の典礼)はかなり緩くなり、同時にその幅を拡大しています。しばしば服装と言葉との間には共通の現象が見られます。ですからその都度の判断という対応策も共通でよいのではないでしょうか。人前で話を聞き取りながら、何人もの関係を当座に書き上げる司会者は、「歳」と書くより「才」と書いた方が、ずっと画数は少なく、気も楽だったでしょう。これは、「箇」や「個」をたくさん書き連ねる場合に、代用の「个」や「ケ」とするのと同じ便宜です。

さて、現代の日本語では「年齢」を「年令」とするという、似たようなことがあります。しかもこの「令」という漢字の上では、もともとの漢字漢語の用法の一つに、鳥の名前「鶺鴒せきれい」を「鶺令」とすることがあるそうです。上の「便宜」とはいかにも方便で劣っているように感じられますが、この音訳や同音異字の代用という点では、その原理は同じなのです。

書いた人

山田貞雄

YAMADA Sadao
やまだ さだお●伝統的な日本語学(旧国語学)を勉強したのち、旧図書館情報大学では、写本と版本の二種によって、『竹取物語』を読みとく授業や、留学生のための日本語・日本事情を担当。その後、国語研究所では、「ことば(国語・日本語・言語)」に関する質問に回答してきました。日常の言語生活や個々人の言語感覚が、「ことば」のストレスにどう関わるか、そこに “言語の科学”は、どこまで貢献できるか、が、目下最大の興味の的です。