ことばの疑問

神戸には関西弁とは違う言葉を使う地域があるようです。どういうことなのでしょうか

2019.10.07 朝日祥之

質問

昨年,神戸のニュータウンに引っ越してきました。関西では関西弁を使うと思っていたのですが,近所の人は,関西弁とは違う言葉を使っているのに気付きました。どういうことなのでしょうか。

ニュータウンで使われることば

回答

ニュータウンで使われる言葉

東京や大阪,名古屋などの大都市の郊外には,ニュータウンと呼ばれる新興住宅地があります。ニュータウンには,全国各地から転入してきた人たちが生活しています。そこでは,様々な方言を使う人が交流することになります。

ニュータウンで使用される言葉には,ほかの地域とは異なる特徴が見られます。ここでは,神戸市にあるニュータウンを例に考えてみましょう。

神戸市をはじめとした関西地方では,友人など親しい人と話す場合,関西方言が広く使われています。ところが,ニュータウンで生活する人の中には,自分の住むニュータウンの言葉を,周辺の地域の言葉と区別して「ミックスした言葉」「ニュータウン言葉」などと呼ぶ人たちがいます。これらの人たちは,ニュータウンで話されている言葉には,複数の方言や共通語が混ざり合っていると意識しているようです。

それでは,神戸のニュータウンと神戸市内の古くからの居住地で使われる言葉の違いについて具体的な例を取り上げてみましょう。ここでは,それぞれの地域で,ふだんから付き合いのある友人同士の会話に見られた五段活用動詞(「行く」など)の否定形の使われ方を紹介します。否定形は,全国共通語では「行かナイ」,関西方言では「行かヘン/行かン」となります。また,否定の過去形は,全国共通語では「行かナカッタ」,関西方言では「行かヘンカッタ/行かンカッタ」となります。表では,それぞれの使用率が示してあります。

否定形の全国共通語「ナイ」を使う人は神戸市内では1%,ニュータウンでは66%。関西方言の「―ヘン」を使う人は神戸市内では48%,ニュータウンでは17%。同じく「―ン」を使う人は神戸市内では51%,ニュータウンでは17%。否定形の過去形の場合,全国共通の「―ナカッタ」を使う人は神戸市内では9%,ニュータウンでは65%。関西方言の「―ヘンカッタ」を使う人は神戸市内では33%,ニュータウンでは0。同じく「―ンカッタ」を使う人は神戸市内では58%,ニュータウンでは35%でした。
表 : 五段活用動詞の否定形の使用率

表を見ると,神戸市内の地域では,関西方言の否定形(「―ヘン/―ン」「―ヘンカッタ/―ンカッタ」)が多く用いられていることが分かります。その一方,ニュータウンの人たちの間では,全国共通語の形式(「―ナイ」「―ナカッタ」)が多く使われています。九州から転入してきた人の場合,もともとの方言では関西方言と同じ「―ン」「―ンカッタ」などを使っていたことが考えられますが,ニュータウンでは他の形式よりも,全国共通語の形式が多く使用されるようです。ニュータウンに住む人から話を聞いたところによると,ニュータウンには神戸市内から転入した人たちも少なくないのですが,その人たちも,ニュータウンの中では,関西方言よりも全国共通語の語形を多く使っているようです。

出身地の異なる人とのコミュニケーション

それでは,どうしてニュータウンでは,全国共通語が多く用いられるのでしょうか。異なる方言を使う人たちが,それぞれの方言を使って話すと,話し相手に自分の言ったことが伝わらない恐れがあるので,うまく伝わるよう,言葉遣いの工夫をします。その時,お互いが知っている全国共通語形が使われる,というのも一つの方法としてあり得ます。

このほかに,ニュータウンという地域の性質もかかわっているようです。多くの場合,その土地に根付いた伝統的な方言があり,それを使うことで,その地域の一員とみなされることにもなります。一方,ニュータウンの場合,そこに根付いてきた言葉がない状況にあります。つまり,ニュータウンの人たちは,地域に溶け込むためにどの言葉を使うべきかという制約がないと考えられます。

このようなことから,全国共通語を使用することで,出身地を異にするニュータウンの人同士がよりスムーズにコミュニケーションを図ろうとしていることがうかがえます。ただし,ニュータウン以外の地域では,関西方言が使われています。同じ人がニュータウン以外の人と話す場合には,また別のやり方で,話し相手が使う言葉に配慮した,例えば関西方言に近い話し方をするというような可能性もあるでしょう。

(朝日祥之)

※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』18号(2005,国立国語研究所)です。『ことば研究館』での公開にあたり,若干の修正を加えました。

書いた人

朝日祥之

ASAHI Yoshiyuki
あさひ よしゆき●国立国語研究所 言語変異研究領域 准教授。
1997年秋,英国エセックス大学大学院生時代に読んだ Peter Trudgill先生 Dialects in contact (1986, Blackwell)が今の研究テーマを決めました。日本人の移民社会は国内外に数多くある。そこでどのような接触が生じているのか。日本語をめぐる方言接触現象に強い関心を持ちました。今は,国内外のフィールドに出かけ,日々現象を向き合っています。