ことばの疑問

英語にはアクセントがありますが、日本語にもあるのでしょうか

2023.05.24 野口大斗

質問

英語にはアクセントがありますが、日本語にもあるのでしょうか。

日本語のアクセント「橋」「箸」「端」

回答

英語のアクセントにはなじみのある方が多いと思います。英単語を調べたときに発音記号についているマークのことを思い浮かべる方も、入試問題でアクセントパターンが異なる語を選びなさいと問われたことを思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。アクセントとは語の中で目立っている位置のことで、英語の場合は語の強く読む位置にアクセントが置かれます。アクセントは日本語にもあり、標準語の場合は音の下がり目の位置をアクセントといいます。

音の下がり目と聞いても、ぴんとくる方は少ないかもしれません。アナウンサーや声優を目指している方なら、日本語のアクセント辞書というものが存在していることは知っているでしょう。また、国語辞典にもアクセントパターンが記されているものもあります。それらの辞書にはどの部分で音が下がるかが記されています。例えば、「アクセント」という単語の中に音の下がり目があるでしょうか。また、その場合はどこで音の高さが変わるでしょうか?

「アクセント」では、「ア」と「ク」の間で音が低くなることに気づくと思います。したがって、アクセント辞書には、「ア\クセント」や「ア¬クセント」のように符号を用いるものや、あるいは 1 拍目の直後で音が下がるので「アクセント(1)」のように数字で示されるものがあります。

普段はあまり気にしないかもしれませんが、アクセントが意味を区別するケースがあります。「橋(が)、箸(が)、端(が)」と標準語で発音してみてください。どこにアクセントがあるかわかるでしょうか。音がどこで下がるのか考えてみてください。

橋(が)「はし\が」(
箸(が)「は\しが」(低低
端(が)「はしが」(高高
(「」は音が低いこと、「」は音が高いことを示します。)

標準語では、「橋」は「し」の後ろで、「箸」は「は」と「し」の間で音が下がります。「端」は音が下がりません。

ほかにもアクセントには面白い現象があります。「夏(が)、休み(が)、夏休み(が)」と声に出してみてください。何かおかしなことに気づきませんでしたか。気づかなかった方は音が下がる位置にもう一度注目してみてください。

夏(が)「なつ\が」(
休み(が)「やすみ\が」(高高
夏休み(が)「なつや\すみが」(高高低低低

「夏」と「休み」を単独で発音した場合と、「夏休み」のように 2 つの語が結合してできる語の場合にはアクセントのパターンが変わっています。不思議なのは、1 つの語にはアクセントは 1 つしかないのに、ほかの語と一緒になってできる語になると、そのルールが変わってしまうことです。この例では、「つ」の後ろ(「なつ\やすみが」)や「み」(「なつやすみ\が」)の後ろにアクセントがくるのではなく、まったく新しい場所で音の高さが変わっています。ぜひ、これと同じく 2 つ以上の語が一緒になっている語を見つけて、元のアクセントと比べてみてください。

2つの語が結合してルールが変わる例:「夏(が)」と「休み(が)」が結合して「夏休み(が)」になった場合、アクセントのパターンが変わる

また、英語の強勢アクセント(強く読む位置)とは違って日本語のピッチアクセント(音が下がる位置)には顕著な地域差(方言差)が見られます。たとえば、先ほどの「はし」の例は大阪弁では以下のようになります。

橋「はし」(
箸「はし」(
端「はし」(高高

ここまでにみたように、日本語にもアクセントはあり、標準語の場合は音が下がるかどうかと下がるとしたらどこかによって表されます。日本語の場合は、アクセントに地域差があることも確認しました。もし近くにみなさんと異なる方言を使う人がいれば、アクセントを比較してみるのもいいかもしれません。

書いた人

満開の桜の木

野口大斗

NOGUCHI Hiroto
のぐち ひろと●国立国語研究所理論・対照研究領域非常勤研究員(執筆時)。現在は、東京医科歯科大学非常勤講師、工学院大学非常勤講師、千葉商科大学非常勤講師、国士舘大学非常勤講師、江戸川大学非常勤講師、東京大学非常勤講師、上智大学言語科学研究科言語学専攻博士後期課程学生。
専門は音韻論ですが、自然言語処理や英語教育などにも関心があります。

参考文献・おすすめ本・サイト

  • NHK放送文化研究所(2016)『NHK日本語発音アクセント新辞典』NHK出版
  • 黄竹佑、岸山健、野口大斗(近刊)『jsPsychによるオンライン音声実験レシピ』教養検定会議、2023年6月刊行予定
  • 野口大斗(近刊)『自然言語と人工言語のはざまで―ことばの研究・教育での言語処理技術の利用―』教養検定会議、2023年6月刊行予定