目と耳の両方に障害がある人はどのようにコミュニケーションをとっていますか。
視覚と聴覚の両方に障害がある状態のことを総称して「盲ろう」と呼びます。全国盲ろう者協会が2012年に実施した調査(『厚生労働省平成24年度障害者総合福祉推進事業 盲ろう者に関する実態調査報告書』、https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/cyousajigyou/sougoufukushi/dl/h24_seikabutsu-02a.pdf)によれば、日本においてそのような状態にある人(=盲ろう者)は少なくとも 1万4000人ほどいるとされ、コミュニケーションや移動、情報の入手といった観点でさまざまな困難が生じている(または、生じていた)ことが想定されます。
盲ろうには、上の段落で「総称して」という言葉を用いた通り、下位分類が存在します。たとえば、視覚と聴覚それぞれの障害の重さを基準とした場合、表1に示す通り、「全盲ろう」「全盲難聴」「弱視ろう」「弱視難聴」という 4つの分類を立てることができます(このように、「見えにくい」「聞こえにくい」段階も盲ろうに含まれるのは、一方の感覚の喪失をもう一方の感覚で補いにくい点で共通した困難があるためです)。
また、目と耳それぞれの障害が生じる時期を基準とした場合、表2に示す通り、「先天的盲ろう」「盲ベース盲ろう」「ろうベース盲ろう」「成人期盲ろう」という 4つの分類を立てることができます。
以上のように盲ろうの特性を細かく分けるひとつの理由として、盲ろう者が用いるコミュニケーション手段は特性に応じて変わってくることが挙げられます。たとえば、弱視ろうやろうベース盲ろうの場合、手話を使える人が多いことから、相手の手を直接触って言葉を読み取る「触手話」(図1)や、対人距離・手を動かす範囲等を調整した「弱視手話」(図2)といった手段が用いられることがあります。
同様に、盲ベース盲ろうや成人期盲ろうの場合、点字や墨字(=アルファベットや平仮名といった点字以外の文字)を使える人が多いことから、手のひらに文字を書く「手書き文字」(図3)、点字用タイプライター等の道具を用いた「点字筆記」(図4)、点字の 6つの点を両手の人差し指・中指・薬指に当てはめて相手の指の上に打つ「指点字」(図5)といった手段が用いられることがあります。さらに、全盲難聴や弱視難聴の場合、聞こえにくさと対応して音量や抑揚、速さを調節した「音声」が用いられることが多いと言えます。
ところで、盲ろう者が用いる大まかなコミュニケーション手段は以上の通りですが、国内外の研究では、実際にそれぞれの手段を用いて会話が行われる際、どのような工夫が生じるか、ということも実態の把握が進められています。たとえば、スウェーデンの研究では、触手話を用いる盲ろう者が会話を行う際、手の垂直的な高さと水平的な位置を巧みに調節することで、まだ話し続けたいという意思を示したり、相手に話すよう促したりすることが報告されています。そのような工夫は、盲ろうではない人々が会話において、イントネーションや表情、視線等によって次に口を開く(または、手話を示す)タイミングを調節できることと対応していると言えるでしょう。
同様に、筆者らの研究グループでも近年、指点字を用いる盲ろう者が関わる会話について調査・分析を進めています。指点字は、日本の盲ろう者である福島智氏(東京大学教授)とその母である福島令子氏によって1980年代に考案されたコミュニケーション手段であり、主に日本の盲ろう者によって利用されています。筆者らの研究では、指点字を用いる盲ろう者同士の会話において、単に言葉を伝える(打つ)動作に加えて、指を左右に揺さぶる動作も行うことで、「今、私は面白いことを言いましたよ」という態度を示していることを報告しました。また、そのような方法は、盲ろうではない人々が表情や声で伝える笑いに相当するものであり、からかいに対する返事等、何を言ったかとどのような態度で言ったかを別々に伝えたい場面(たとえば、言葉の上では真剣に対応しつつ、それが本心からではないことを笑って伝えるときってありますよね。)や、特定の話題について強い関心を持っていることを伝えたい場面で効果的に利用されていることを明らかにしました。
このように、盲ろう者のコミュニケーション手段及び、実際にその手段を用いる際の取り組みは、障害の特性や居住地域、個人によってさまざまですが、いずれも盲ろうではない人々が行うコミュニケーションと、まったく切り離されたものではないと言えます。
※ 図2、4は、NPO法人東京盲ろう者友の会(2019)「知ってください 盲ろうについて」(パンフレット)を出典とするものです。この記事の執筆にあたって東京盲ろう者友の会から使用の許諾を得ました。図1、3、5は筆者が撮影したものです。