「格別の/格別な事情」のどちらが正しいですか。
「格別(各別)」を『日本国語大辞典 第2版』(小学館)で引いてみると、おおよそ次のような意味となっています。
名詞として、
①「それぞれ別であること。また、めいめいが別々に行なうこと」
②「物事の種類、性質、内容などが異なること。全く別種であること。他とまじり合わない、それ固有であること」
③「物事の度合が普通より著しいさま。多く、よい方に著しい場合にいう」
④「ともかくとして。別にして」
副詞として、
①「物事の状態、性質などの度合が普通よりはなはだしい意を表わす」
②「(下に打消を伴って)それほど。たいして」
表題の質問の「格別」が意味するところは名詞の②に該当するかと思います。そこで『日本国語大辞典』の用例を見てみると、古くは15世紀初頭に世阿弥が記した能の理論書『風姿花伝』に「殊に各別の事にて」とあったと記載されています。その他、日本語をポルトガル語で解説した辞典である『日葡辞書』(17世紀初頭)には「Cacubetno(カクベツノ)シサイアッテ」などという用例もあります。よって歴史的に考えれば「格別の事情」とする方が「正しい」のでしょう。
ではなぜ「格別な事情」でもそこまで不自然に感じないのでしょうか。それは物事の状態や様子をあらわす名詞には学校文法でいうところの形容動詞としての用法もあるからです。形容動詞は「元気な子供」「静かな部屋」のように、「〇〇な」という形で後ろの言葉を修飾します。ちなみにこの形から、外国人向けの日本語教育では形容動詞のことを「な形容詞」と呼んでいます。学校文法でいうところの形容詞は「美しい人」「新しい靴」のように「〇〇い」という形で後ろの言葉を修飾するので「い形容詞」と呼んで区別しています。
それではどの程度「格別の/格別な」が使われているかを見てみましょう。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』内で検索してみると名詞につながる「格別の」は134件、「格別な」は37件ありました(2018年3月現在)。実際に使われている数は「格別の」の方が上回っていますが、やはり使用上の「ゆれ」があります。
このように「〇〇の」と「〇〇な」、どちらにするか迷うような言葉 = ゆれのある言葉にはほかにどんなものがあるでしょうか。たとえば、「共通の」「共通な」、「人気の」「人気な」など、二字漢語のものが思い浮かびます。ほかにも気になる言葉があったらコーパスを使ってどちらが多いか、どんな文章で使われているのかなどを調べてみるのも面白いでしょう。