これまでの絵文字・顔文字とLINEのスタンプでは何か違うのでしょうか。
今や「え? “スタンプ” を知らないの?」と思う方も多いかも知れませんが、あらためて簡単に説明します。ここで言う “スタンプ” とは、スマートフォンなどで「LINE(注1)」という2者間(もしくは3者以上のグループ)で文字・画像のやり取り、音声通話もできるアプリケーションで使われるイラストを指します。百聞は一見に如かず、図1 の丸で囲んだ部分がその“スタンプ(注2)” の例です。
この20数年、私たちはメールやチャットなどを使って互いの “顔が見えない” “声の調子がわからない” 相手に対し、文字による即時的なやり取りを日常的に行い、場合によっては、文字メッセージを補うように「絵文字」や「顔文字(^-^)」を駆使してきました。
ただ、どんな相手に、どんな内容ならば、どの絵文字・顔文字を使っていいのか、随分悩んできたように思います。それはなぜだったのでしょう。
この「文字」が付く顔文字と絵文字ですが、そもそも「文字」とは。『デジタル大辞泉第二版』(小学館 2017年5月18日更新版)には、「言葉を表記するために社会習慣として用いられる記号」との記述があります。
何をもって「社会」とするかは大変に難しい問題ですが、例えば私は生まれて最初に家族という社会に属し、学校という集団生活を経て、今はことばの研究をする人たちの社会にも属しています。
そして、その社会集団にしか通じない「ことば」や「伝え方」があり、それはその社会の中で生まれ、習慣化し、必要に応じて身につけていきます。
それぞれの社会の中で、伝えたい事をいつもお互いの声と顔を見て伝え合えれば良いのですが、会えない時でも “何を意味しているのか” をできるだけ確実に伝えられる文字記号で、時には文字以外の記号で補いながら想いを伝えています。
今現在、「!」や「?」などの記号は多くの人がその意味を共有していますが、15年ほど前、当時50代の先生から「ところで君、<遅れてごめんー>の、 “し” …いや、 “も” ? みたいなのは何?」と質問を受けた事がありました。0.1秒程質問自体を考えました(
の事です)。同じ社会習慣を共有していない、自分の当たり前が当たり前ではない事を痛感した出来事でした。かく言う私も、昔は<:)>、数年前まで<onz>から何を見出したらいいかわかりませんでした。(注3)
このように絵記号は、せっかく文字メッセージを補う為に使用しても “何を意味しているのか” を共有できなければ効果が薄れてしまう事もあります。
LINEが登場しても、絵文字、顔文字は「吹き出し」という、1回に送るメッセージを示す枠の中に登場しています(図2 部分参照)。一つの要件を伝えるだけでも、場合によってはいくつかの吹き出しに分けて送信する事も多々あります。
では、スタンプはこれまでの絵文字や顔文字と何が違うのか。おおきな違いは、文字化け(〓やなど)せずに吹き出しの外にステッカーのように貼れ、単独で表示される点ではないかと考えます。実際、図3(
部分)など、まるで通常の会話のように、スタンプだけでやり取りが行われる事も少なくありません。
「そんな些細なこと…。前後の文脈からわかるじゃないか。」と思う方もいらっしゃるかも知れません。
ただ、特に若い人達はこのスタンプの様子に敏感です。さらには「吹き出しの数」、もっと言うなら「吹き出し内の改行の数」、そして「吹き出しの外」という “些細” と思われるような事からも、送り手だけでなく受け手も相手の伝えたい事を推し量ろうと努めています。
若い人だけでなく、人間関係の構築途中ほど、個人差はあれ、互いに懸命に工夫をします。顔が見えない、という事はそれだけ大変な事なのです。
そのスタンプも、LINEに最初から入っているものは、ほとんどがイラストのみです。そこに、無料で利用できるものをダウンロードしたり、好きなスタンプを有料で購入したりする人もいます。
本原稿執筆時(2018年3月9日検索)、スタンプをダウンロードできる「LINE STORE」で最初に表示された画面(人気順)のスタンプにはすべてに文字メッセージが付与されていました。図2、3は、私が2014年実験的に「相手に“ある負担”をかけるお願いの場面」を設定して収集したLINEデータです。ここでもお互いの“負担”が増すほど“イラストの意味を明確に示す文字”が付与されています。
最近では、動くスタンプや音でメッセージを発するスタンプも多く存在しています。ただ、私たちは、動く!音が出る!楽しい!という興味だけで使用するスタンプを選んでいるでしょうか。相手との関係や内容によって、 “どう伝わるか” を手探りしながら選んでいるのではないでしょうか。場合によっては、絵文字・顔文字は使えても、「スタンプ」は使えない、使わない、という関係や内容もあり、使い方をまだまだ模索していることと思います。
実際、所持するスタンプは多数でも、使用するものはほぼ決まっている、という人が多いようです。ちなみに、本文執筆時の新着人気ナンバー1(数百件中)は、“リラックマのかわいい敬語スタンプ”でした。
これまで私たちが長年培ってきた「敬語」ということばの社会習慣、もしくは慣習を、新しい伝達方法ではどう役立てられるか、その方法を模索し、踏襲している事がわかります。
「スタンプ」は、文字化けしやすい絵文字と違って確実に表示され、記号をそれぞれ組み合わせて作られた顔文字よりも、イラストが “何を意味しているか” より伝わりやすい工夫がなされている点が特徴としてあり、これだけ社会に浸透している理由になっていると考えます。ただし、その使い方は、絵文字・顔文字よりも、まだまだ手探りの途中、といったところでしょうか。
注1) 「LINE」、「LINE STORE」はLINE株式会社の商標または登録商標です。
注2) 本記事に掲載されているスタンプは、図1の左上から順に株式会社ディーエイチシー、株式会社トライグループ、株式会社ロッテ、ソフトバンク株式会社の著作物です。スクリーンショットはLINE株式会社の許諾により掲載しております。
注3) <>は汗を表します。<: )>は90度右に傾けると:が目、)が口を、<onz>はoが頭、nが手や胴体、zが跪く様子を表しています。