ことばの疑問

日本語の接続詞と英語の接続詞は同じものですか

2019.08.07 天谷晴香

質問

日本語の接続詞と英語の接続詞は同じものですか。

日本語と英語の接続詞イメージ

回答

言語学を学び始めると最初に習うことですが、言語には複数の側面があります。ざっくり言うと「音声」「文法」「意味」の3つの側面が挙げられます。ご質問の「同じ」かどうかについてですが、言語のどの側面において「同じ」でどの側面において「違う」か、これらの3つの側面から日英の接続詞の相違点について見ていきましょう。

音声

まず「音声」の側面から見てみましょう。これは違います。例えば日本語の接続詞の「そして」と英語の接続詞のand、どちらも順接の接続詞(前の文の内容から次の文の内容が予測される時に使われます)でたがいに翻訳可能ですが、全く異なった音の並びから成り立っています。音声部門では日本語の接続詞と英語の接続詞は(接続詞に限ったことではありませんが)別物です。

まったく異なった音の並び(英語はand、日本語はそして)

意味

次に「意味」の側面から見てみましょう。接続詞は文法的な機能を示す機能語ですので、語彙的な意味を持つ内容語とは違います。語彙的な意味とは、例えば「りんご」やappleといった名詞がみなさんご存じの赤い果物を意味しているという時の「意味」です。このような語彙的意味を接続詞は持ちませんので、最初に3つの側面と書きましたが、この意味部門はスキップしてよいでしょう。

文法

それでは、最後に「文法」の側面から見てみましょう。そもそも「接続詞」は文や語を連結させる文法のカテゴリーのひとつです。同様の文法カテゴリーとして扱われるという点において、文法的にはある程度「同じ」と言えそうだということがわかります。先ほどの日本語の接続詞「そして」と英語の接続詞andは、前の文から内容が予測される文を前の文と連結する時に用いられる文法機能を持っているという点で同じと言えます。しかし単純には同じと言えない面もあります。細かく見ていきましょう。

「接続詞」は文章中で現れる位置などによっていくつかの種類にさらに分けられます。実は、日本語の接続詞と英語の接続詞ではそれらの種類が異なります。

日本語の接続語の種類には、独立して使用される接続詞と、別の語に付属して使用される接続助詞があります。接続詞には「だから」「しかし」などがあり、接続助詞には「ので」「が」などがあります。

日本語の接続詞の種類

英語の接続語の種類には接続詞と接続副詞があります。

先に接続副詞についてふれると、howeverやthereforeなど、書き言葉でよく使われる副詞があります。これらの接続副詞はそれまでの文脈と次の文の関係を示すのに使われるもので、文章の展開を明確にします。

そして副詞でない接続詞ですが、等位接続詞と従位接続詞に分けられます。等位接続詞は文と文や節と節など同等のものをつなぐ接続詞で、andやorがその代表例です。従位接続詞はある節を他の節に従属させる働きをするもので、ifやbecauseがその代表例になります。

英語の接続詞の種類

このように、文法から見た時、日本語と英語の接続詞で文や語を連結する文法的機能を持つという点で「同じ」部分があります。(そうでなければ同じ「接続詞」という語で呼ばれることもないでしょう。)しかし、その文法システムは接続詞の種類が違うなど、異なっている部分もあります。

日英の接続表現を比較する手法

今回は「日本語の接続詞」「英語の接続詞」について3つの側面からの比較では、文法の側面において「同じ」と捉えられる部分があることがわかりました。

さらにくわしく日英の接続表現を比較したい場合は、個別に使われ方がとても似ている日英の接続表現のペアを見つけ、それらの用例を集め、使われ方が同じか否かを比較するとよいでしょう。中には、同じ文法機能を担う部分があるにもかかわらず、互いに相手にはない用法のある日英ペアもあります。例えば、英語のbutは日本語の「しかし」と同じように文と文を繋ぐのに使われますが、実はbutにとってはこれは中心的な機能でありません。butは日本語でいえば接続助詞「が」に対応するような使われ方をすることの方が多いのです。似ていると思うペアを見つけ、それらの用例を集めて比較していくと、同じ点、違う点がよりはっきり見えてくるでしょう。

ふたつの語が同じか違うか、比べる時にはいくつかの側面に分けてみましょう。「まったく同じ」というパターンと「全然違う」というパターンの間にはたくさんの「ここは同じだけどここは違う」というパターンがあります。「100%同じ」「100%違う」だけではない分析的な比較方法をぜひ試してみてください。

書いた人

天谷晴香

天谷晴香

AMATANI Haruka
あまたに はるか●国立国語研究所 音声言語研究領域 プロジェクト非常勤研究員。
英語学を勉強したり日本語の統語やプロソディを操作した心理言語学実験をしたりしてきて、現在は自然会話場面のマルチアクティビティ研究として化粧をしながら喋っている人の発話やジェスチャーと行為構造の関係を記述分析しています。

参考文献・おすすめ本・サイト

  • 石黒圭 (2016) 『「接続詞」の技術』 実務教育出版社
  • 寺澤芳雄 編 (2002) 『英語学要語辞典』 研究社