ことばの疑問

広報紙などでは外来語をどのように使うのが良いでしょうか

2019.09.20 朝日祥之

質問

外来語は特に年配の人にとっては分かりにくいと思うのですが,幅広い世代が読む広報紙などではどのように使うのが良いでしょうか。

広報紙で使われる外来語のイメージ

回答

広報紙で使われる外来語の分かりやすさ

広報紙には,地域情報や生活情報が掲載されています。自治体には,その情報が住民に等しく伝わるよう言葉遣いを工夫することが期待されています。そこで,広報紙で住民が分かりにくさを感じる言葉があるかどうか,その対策として,言い換えや説明を加えてもらいたい言葉はどのようなものかについての意識を,国立国語研究所が行った「外来語に関する意識調査(全国調査)」( https://www.ninjal.ac.jp/archives/genzai/ishiki/ )の結果から見てみましょう。「広報紙に分かりにくい言葉があると感じたことがありますか」「広報紙で分かりやすく言い換えたりしてほしいと思われるのは,どんな種類の言葉ですか」という質問に対する回答を,図1にまとめました。

広報紙で分かりにくさを感じる言葉を調べた調査結果をグラフにしたもの。広報紙で分かりにくさを感じる言葉があると回答した人は,20代 18.4%,60代以上 29.0%。言い換えや説明が必要なことばについて。外来語(例:ケア,ニーズ)は20代 24.0%,60代以上 40.9%が必要があると回答。アルファベット略語(例:ALT,IT)は20代 37.2%,60代以上 42.2%が必要があると回答。専門用語(例:分離課税,喀痰細胞診)は20代 28.6%,60代以上 33.1%が必要があると回答。
図1 広報紙で分かりにくさを感じる言葉

図1から,分かりにくさを感じる言葉があると感じるのは,若年層(20代)よりも高年層(60代以上)に多いことが分かります。また,言い換えや説明が必要な言葉の割合は全体的に高年層の方が高く,中でも外来語は若年層との差が16.9%と最も大きいことが読み取れます。

分かりにくさを感じる外来語

ここで,分かりにくさを感じる外来語を具体的に取り上げてみることにしましょう。先の調査では,「あなたは,(中略)広報紙などで表記する際に 1~3 のどの表現を使った方が良いと思いますか」という質問も行いました。その結果を,国立国語研究所が行った「外来語定着度調査」(「解説2」p41,新「ことば」シリーズ19 『外来語と現代社会』 国立国語研究所,平成18年)の結果と併せて,図2に示します。

外来語の定着度と広報紙での表記を調べた調査結果をグラフにしたもの。(1)デイサービスという言葉について,外来語の定着度は20代 73.8%,60代以上 73.2%。広報紙での表記は外来語「デイサービス」を使用がよいと回答した人は20代 41.7%,60代以上 34.5%,言い換え語と併記した「デイサービス(日帰り介護)」がよいと回答した人は,20代 44.1%,60代以上 39.7%。言い換え語「日帰り介護」がよいと回答した人は20代 11.0%,60代以上 21.0%,であった。(2)ニーズという言葉について,外来語の定着度は20代 88.7%,60代以上 43.6%。広報紙での表記は外来語「ニーズ」を使用がよいと回答した人は20代 39.4%,60代以上 14.5%,言い換え語と併記した「ニーズ(必要・要望・要請)」がよいと回答した人は,20代 40.7%,60代以上 38.4%。言い換え語「必要・要望・要請」がよいと回答した人は20代 16.1%,60代以上 39.6%,であった。
図2 外来語の定着度と広報紙での適切な表記

図2から,まず,外来語の定着度(理解率)には,世代差のある語とない語があることが読み取れます。「デイサービス」にその違いはほとんどない(若年層73.8%,高年層73.2%)一方,「ニーズ」では高年層の定着度(43.6%)は若年層(88.7%)の半分にとどまっています。

次に,広報紙での表記については,「デイサービス」の場合,外来語と言い換え語を併記するのが良いとする回答(若年層44.1%,高年層39.7%)が,世代を問わず最も多いことが分かります。しかしながら,「ニーズ」の場合は,言い換え語を使用するのが良いとする回答(若年層16.1%,高年層39.6%)が高年層で多くなるのです。外来語の定着度に世代差があると,どの表記を適切と考えるのかという点にも世代差が生まれるように考えられます。

分かりやすさを求めて

このように,広報紙での表記については,外来語と言い換え語を併記するか,言い換え語を使用してほしいという意識があることが確かめられました。しかしながら,この意識は外来語の定着度や世代によって異なることも分かりました。より分かりやすい広報紙作りのためには,こうした点に留意しながら外来語の使い方を工夫していくことが,一つの方法となり得るでしょう。

(朝日祥之)

  • 外来語に関する意識調査
    外来語に関する国民の意識と言語生活の実態を知ることを目的に,2003年10~11月に実施しました。全国の満15歳以上の男女,4,500人を対象に面接して行いました。回収率は68.6%でした。詳細はリンク先をご覧ください。
    https://www.ninjal.ac.jp/archives/genzai/ishiki/
  • 外来語定着度調査
    個々の外来語が国民にどの程度定着しているかを知るために,2002年11月から2004年8月にかけ,順次実施しました。全国の満16歳以上の男女,約2,000~3,000人を対象に面接で行いました。回収率の平均は71.5%でした。詳細はリンク先をご覧ください。
    https://mmsrv.ninjal.ac.jp/gairaigo_yoron/

※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』19号(2006,国立国語研究所)です。『ことば研究館』での公開にあたり,若干の修正を加えました。

書いた人

朝日祥之

ASAHI Yoshiyuki
あさひ よしゆき●国立国語研究所 言語変異研究領域 准教授。
1997年秋,英国エセックス大学大学院生時代に読んだ Peter Trudgill先生 Dialects in contact (1986, Blackwell)が今の研究テーマを決めました。日本人の移民社会は国内外に数多くある。そこでどのような接触が生じているのか。日本語をめぐる方言接触現象に強い関心を持ちました。今は,国内外のフィールドに出かけ,日々現象を向き合っています。