外国人が日本語を学ぶ場合、外来語はどのような長所や短所がありますか。また、外来語の教育には、どのような工夫が望まれますか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』19号(2006、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。
外来語は日本語学習者にとって悩みの種であると言われます。例えば、「ラジオ」は「radio」と発音がかなり違いますし、「チーム(team)」と「ティー(tea)」のように、同じteaでも発音も書き方も異なります。また、「マンション」から、英語の「mansion(邸宅)」を期待する、「ナイター」が「nightgame」と知り、驚くというような話も聞きます。外来語の発音、書き表し方、意味、そして和製英語は、日本語学習者を戸惑わせるようです。
一方、外来語には英語起源のものが多く、英語が分かる学習者には理解しやすいが、そうでない人には難しいという意見もあります。では、外来語は日本語を学ぶ上で特別な困難点になったり、またある人たちにとっては有利に働いたりするものなのでしょうか。
外国人の日本語能力を測定する「日本語能力試験」の出題基準(※参考文献➀)では、初級相当の4級に外来語は63語挙がっています。3級 109語、2級 326語、上級の1級で533語です。漢字の場合、4級 103字、3級 284字、2級 1,023字、1級 2,040字ですから、この数に比べると、外来語が特別な支障とは考えられません。また、先述したように、英語話者にとって有利なものとは言い切れません。そして、英語から外来語を多く取り入れている言語(韓国語等)の話者にとっても、利点と困難点があります。
外来語は日本語学習を特に困難にするものでもなく、ある学習者には困難で、ある学習者にはそうではない、と簡単に言えるものでもありません。どんな学習者にとっても、和語や漢語と同様に一つ一つ理解し覚えていかなくてはならない存在なのです。
ただ、だからといって、すべて暗記するしかないということではなく、ある程度、体系的に覚えていくことは可能です。例えば、英語の「team」や「home」なら、最後のmやmeは「ム」と書きます。また、teaが「チー」「ティー」の両方になり得ることについては、平成3年の内閣告示「外来語の表記について」(https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/gairai/index.html)で、外来音ティに対応する仮名として「ティ」が示され、「チ」と書く慣用のある場合は、それによるとしています。そのため、紅茶を外来語で表すときは、外来音を表す「ティー」を用い、「team」は慣用により「チーム」とする場合が多いのです。
しかし、こういったことを取り上げている教材はほとんどありません。現在使われている外来語の発音や書き表し方について、すべてを体系付けて教えることは困難ですが、よく使用される外来語についてはその規則性を明らかにし、それを外来語学習上の助けとなるように、学習者に示していくことはできるでしょう。
ところで、教材はなくても、外来語にうまく対処している人は少なくありません。外来語をどう使うか迷う段階、英単語を外来語的に使って会話を続ける段階、「テイクアウト」の代わりに「持ち帰り」と言い、外来語を避ける段階などを学習者はたどるようですが、多くの学習者は、次第に日本語式の発音や、書き表し方の規則性を身に付けていきます。
また、学習する日本語の中に自分が知っている言葉を発見し、面白がる人もいます。これは、外国語を学ぶ日本人についても言えることです。英語を習い始めると、「door(ドア)」や「knife(ナイフ)」のように、日本語の中でよく使っている言葉、「tsunami(津波)」や「futon(布団)」のような英語になった日本語に出会います。これにより、その外国語に対して親近感が沸いたり、外国語習得という大きな山に少し手掛かりができたように感じたりする場合があるのです。
こういった学習者の取り組み方や習得の様子を意識しつつ、日本で生活する上で必要な外来語、ある分野で必要となる外来語、といったものを収集・整理すること、そして、それらを学ぶための教材等が開発されることが望まれます。
(金田智子)