ことばの疑問

「ありよりのあり」とはどういう意味で、どう使うものですか

2023.02.22 有田節子

質問

「ありよりのあり」とはどういう意味で、どう使うものですか。

ありよりのあり

回答

若者言葉として多くの人に知られるようになった「ありよりのあり」ですが、今なお、その表現そのものに疑問を持つ人は少なくないようです。それもそのはず、「あり」は、状態動詞「ある」の連用形の名詞化で「あること」を表し、「ある」と「ない」は、反義関係にある対義語のペアで、「両極的反義」と呼ばれていて、「片方の否定が他方を指し、中間の段階が考えられない」(国広哲弥「類義語・対義語の構造」、p.167)とされています。したがって、あたかも、「ある」に段階性があるかのような「ありよりのあり」に疑問を感じるのは無理もありません。

とはいえ、両極的反義語のペアに絶対に中間段階が認められないのかというと、そうとも限りません。「出席・欠席」を考えてみましょう。学校の授業で、「出席でなければ欠席」「欠席でなければ出席」のはずですが、現実には「遅刻」や「早退」をすることもあって、これを出席とするのか欠席とするのか、はたまた、そのどちらでもないとするのか、それは、どの段階で教室にいることを出席とみなすかによります。このように、現実世界の状況に即してもともと中間段階がないはずの「出席○」「欠席×」に「遅刻・早退△」という中間段階を認めることになるのです。そう考えると「あり」に段階性があっても、それほど不思議なことではありません。

さて、「ありよりのあり」の意味ですが、段階性を認めるだけでは説明がつかない側面があります。「実用日本語表現辞典」(辞書サイト)では、「ありよりのあり」について、「あり」と「なし」で是非を評価する場面において、「なし」要素を含まない・匂わせない「あり」、すなわち全面的に肯定的な「あり」の意味合いで用いられる若者言葉と定義しています。この「是非を評価する場面」という記述を考慮すると、「ありよりの…」の「あり」は、単なる存在ではなく、その存在を「認める(=是と評価する)」ことを意味していることになります。これを「あり」の「認め用法」と呼ぶことにします。

この認め用法は、「あり」単独で持っている用法です。

  1. 「彼女がいるのですが、とても尊敬できる女友達と飲みに行ったりするのはアリだと思いますか?」(Yahoo知恵袋 BCCWJ
  2. (タイヤの交換についての相談に答えて)「出費を抑えたいなら減りの早い後だけ交換はアリです。もちろん前後同時に替えるに越したことはないですが、あまりにも後だけ早い場合はやっています。」(Yahoo知恵袋 BCCWJ

どちらも相談サイトに2005年に見られた例で、そういう行為を認めていいかどうかの相談や、そのような相談への回答の中で使用されています。認め用法の「あり」が使われる背景には、少し大げさですが、認めていいかどうかの葛藤があります。(2)のようなタイヤの交換の話であれば、問題ないことが確かめられれば事足りるのですが、(1)のような彼女がいながら別の女性と飲みに行くという、心に迷いがある相談の場合、その迷いを払拭してくれる答えがほしいところです。単に「ありですよ」と言われるだけでは、安心できず、「悪い要素などどこにもない」と言ってほしい、そんな気持ちに応じるように「ありよりのあり!」が生まれたのではないでしょうか。「ありよりのあり」がツイッター上で最初にみられるようになったのは2010年頃という報告(NHK 生活情報ブログ、https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/news/298443.html)がありますが、「あり」単独の認め用法が「ありよりのあり」誕生の源になっているのではないかと考えています。

単に「ありですよ」と言われるだけでは安心できない

さて、以下の(3)〜(6)の例は、ツイッター上の内容に基づいて筆者が作成したものですが、このうち、(3)(4)は先の辞典の定義にあった全面的に肯定的な「あり」の意味合いで用いられています。

  1. はまぐりとアサツキのボンゴレスパゲッティ。ありよりのアリ
  2. おすすめのゲームがあれば教えてください。友達と一緒にできるやつとか、ありよりのあり

一方、(5)(6)は、全面的肯定というよりも可能性が高いという意味で使われています。

  1. このままいくと、課題の終わらない夏休みになる可能性もありよりのあり
  2. 前に没になったって言ってた連載、復活の兆しありです! ありよりのあり

(3)(4)の「あり」は認め用法ですが、(5)(6)は、「可能性がある」「兆しがある」の存在を表す「ある」が「ありよりのあり」に置き換わったものです。存在の「ある」が「ありよりのあり」と表現された場合、全面的に肯定というよりも、存在する可能性が高いことを表すように思われます。

存在の「ある」が「ありよりのあり」と表現されると、存在する可能性が高いことを表す

以上のことは、「ありよりのあり」には、(A)全面的に肯定する、という意味と、(B)存在する可能性が非常に高い、という意味があり、(B)は、「あり」本来の存在の意味が現実世界の状況に対応する過程で、二者択一であるはずの存在に段階性が生じ、可能性が極めて高いことを意味する表現として生まれたもの、一方、(A)は存在の意味から派生した認め用法の「あり」が、現実世界の要請(存在を認めていいかどうかの迷いを払拭したいなど)に対応する形で、全面的肯定の表現として生まれたもの、というふうにまとめられます。

「ありよりのあり」をそれらしく使うには、(A)を習得したいところですが、それには、認め用法の「あり」の使用に慣れる必要があります。若い店員さんに服のコーディネートを相談する場面で、思い切って、「このシャツにこのジャケットってあり?」と言ってみてはいかがでしょうか。「ありよりのあり!」と答えてもらったときの安心感を体験したら、わりとすんなりと言う側にまわることができると思います。

なお、若者言葉はうつろいやすく、「ありよりのあり」はすでに若者の間であまり使われていないという報告(マイナビ学生の窓口、https://gakumado.mynavi.jp/gmd/articles/54012)もあるようですから、無理して使わず、すたれるのを待つという選択肢もありよりのあり。

書いた人

三角コーンを回る白い犬

有田節子

ARITA Setsuko
ありた せつこ●立命館大学 言語教育情報研究科 教授、大阪樟蔭女子大学 名誉教授。
日本語の文法を研究しています。いわゆる標準語のみならず、地域語にも注目しています。文法研究の成果を日本語教育に応用することも重要だと考えています。しかし、文法教育・研究の必要性を理解してもらうのは難しく、大学の授業では、若者言葉をとっかかりにして、学生の興味を引こうと努力しています。

参考文献・おすすめ本・サイト

参考文献・サイト

  • NHK 生活情報ブログ「「ありよりのあり」ってあり?なし?」、2018年5月29日配信(https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/news/298443.html
  • 国広哲弥(2002)「類義語・対義語の構造」飛田良文、佐藤武義(編)『語彙(現代日本語講座第4巻)』明治書院、pp.152-171.
  • 「現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)」(https://clrd.ninjal.ac.jp/bccwj/)、2022年6月24日確認
  • 実用日本語表現辞典(http://www.practical-japanese.com)、2021年2月24日確認
  • 『日本国語大辞典 第2版』(2002)小学館
  • マイナビ学生の窓口「ありよりのありの意味と使い方は? 流行のきっかけとなった元ネタや類語も解説」、2021年4月7日配信(https://gakumado.mynavi.jp/gmd/articles/54012