国語研の窓

第15号(2003年4月1日発行)

暮らしに生きることば

草木の名前

樹は下から見上げるときが美しい。葉叢(はむら)を透かして空を見る。

国語研究所は,北区と板橋区の境にあって,構内には37種,約300本の樹木が息づいています。それぞれの木はそれぞれの木洩れ空を抱いています。

そのなかに楷(かい)ノ木があります。中国の原産で日本には自生しないウルシ科の落葉高木です。孔子の墓に弟子の子貢が手ずから植えたと伝えられ,孔子木とも学問の木とも呼ばれているものです。若木のうちは地中をはう根から伸びる小幹が,直立して生え並ぶためか,漢字書体の楷書の語源となった木です。国内には少なくとも149カ所あるうちの1本で,湯島聖堂の大樹の種子から育ち,中国山東省曲阜の孔子廟に植えられたものの子孫にあたるようです。

ここでは春,真っ先に目立たず花をつけるのは,スズメノカタビラです。草の中で一番多い鳥の名がスズメで,小さいものの代名詞です。イネ科のため,極小の花が合わさって小穂を作り,集まって稲穂のように見えます。細かな穂の一つ一つを,襟元をあわせたつましいひとえの着物に見立てたわけです。

春の盛りはタンポポです。好きなのは子供の遊び説です。茎を5ミリ位にちぎり,両端に切れ目を入れて5分位,水につけます。放射状に固く反って小さな鼓になります。鼓はたん,ぽんぽんと聞こえるので,言いやすくタンポポになったという説です。

夏には生け垣にヘクソカズラが咲きます。可憐な花ですが,葉や茎に良いとは言えない匂いがあるため,万葉の時代から気の毒な名で呼ばれています。不憫に思い花の形を早乙女の笠と見立て,早乙女花と呼びかえた人もいたようですが,あまりの落差からこの名は広まっていません。そこで,これまでのいきさつと実情とを踏まえ,次のように名付けてみました。美人のおなら草。

言葉の由来を訪ね,自分の言葉も創ってみることほど楽しいことはありません。昔の人の心に出会え,言葉を創った時の気持ちを,今度は遠い未来の人が,訪ねてくれるかも知れないからです。

(近藤 二郎)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。