第16号(2003年7月1日発行)
3月15日に中目黒GTプラザホールにて,第14回「ことば」フォーラム「ビジネスや留学にいきる言葉の力とは?」が開催されました(後援:目黒区,目黒区教育委員会 協賛:(株)大修館書店,(株)アルク,日本語文章能力検定協会,日本言語テスト学会)。当日は小雨模様の天気にもかかわらず,130名の参加者に恵まれました。
豊かな言語生活を送るためには言葉の力が必要であると誰しも思うところですが,その力とは何かを考えようとすると,漠然としていて手がかりに欠けたものになります。そこでまず,このフォーラムでは,考えるための切り口として,ビジネスや留学という状況を選びました。そして,そこで必要とされている言葉の能力や技術をさまざまな角度から紹介することによって,言葉の力についての具体的なイメージが浮かび上がるのではないかと考えました。
菅井による趣旨説明の後,講演者は,各種の検定やテストから具体例を用いて,それぞれが大切と考える言葉の力について説明しました。
「日本人の文章力」 樺島氏は,日本語文章能力検定を素材に,文芸的なものを書くことは広くたしなまれていても,その他のジャンルのことについて書くのは不得手な人が多いことを紹介しました。書くときは,事実を客観的に伝え,内容を十分に分析し,論理的に書くよう努める必要があると説きました。
「外国人の日本語力」 西原氏は,日本留学試験を素材に,外国人が日本の高等教育機関で勉強するのに必要な日本語力「アカデミック・ジャパニーズ」について説明しました。留学生には,情報の流れを全体的に捉えたり,選択的/批判的に理解したり,情報を分析したりするなどの能力を日本語で発揮できるスキルが必要であると述べました。
「韓国ビジネスマンの日本語力」 李氏は,韓国のビジネスマン向けの日本語能力試験(JPT)を取り上げ,テスト問題の出題傾向を検討しました。そして,実践の場で日本人と円滑に意思疎通を行うことができる日本語力を重視するべき,と述べました。
「日本人の英語力」 Thrasher氏は,米国TOEFL試験の40年の歴史をたどりました。言葉のテストに表れる言葉に対する見方は,その時々の外国語教育における見方を反映して変化しているが,留学に本来必要な基礎的な英語力は不変であることを強調していました。
「ヨーロッパの言語テスト」 杉本は,ヨーロッパ各国で行われているさまざまな言語テストの内容を比較して共通の枠組みを決めようというALTE(ヨーロッパの言語テスト実施・研究の共同機関)の取り組みについて紹介しました。
講演の後,参加者からは,身近な疑問でありながら,言葉の力について考えるための大切な手がかりとなる質問が多数寄せられました。そのうちいくつかを紹介すると,「説得力を増すための強調などを,書き言葉や話し言葉でどう出したらよいのか」「日本人ビジネスマンが国際会議の場で積極的に発言できないように見えるがどうしたらよいのか」「言葉の力は,読んだり書いたり特定の分野だけ伸びるのか,それとも全体に伸びるのか」などです。
質問後も協賛機関の配布物に興味深く目を通したり,講演者と意見交換を行ったりと,多くの参加者が会場に残り,まだまだ会場を去るのが名残惜しい雰囲気で閉会となりました。
(菅井 英明)
第14回「ことば」フォーラム:http://www.ninjal.ac.jp/archives/event_past/forum/14/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。