国語研の窓

第22号(2005年1月1日発行)

暮らしに生きることば

トコロの話

「めがねをかける」,「ソースをかける」,「号令をかける」,「腰をかける」…いずれの例でも「かける」という語が使われていますが,「かける」が表している意味はそれぞれ随分違うように感じられます。場合によって複数の意味を表す語を,「多義語」と言います。「かける」は,多義語の典型的な例です。

以下では,「ところ」という多義語について考えてみましょう。

(1) ここは僕が昔住んでいたところです。
(2) 隆夫はたった今来たところだ。
(3) もしも目覚ましが鳴らなければ,寝過ごすところだった。

(1)の「ところ」は,ある具体的な場所を表しています。一方,(2)の「ところ」は,「隆夫が来た直後であること」という時間的な表現として使われています。さらに(3)の「ところ」は,そうなりそうだったけれども,実際にはそうならなかった,という状況(反事実)を表しています。「ところ」はそもそも「場所」を意味する語でしたが,その使い方の範囲が広げられて,「時間」や「反事実」などの意味も表すようになったのです。

一般的に,基本的な意味を表す語や日常よく使われる語ほど,その語が本来持っている意味が広げられ,多義語になりやすいという性質を持っています。ある語の意味がどのように広がっていくかを研究することによって,多義語が成立する過程を明らかにしたり,語の中心的な意味と周辺的な意味の違いをとらえたりすることができます。

さらに「ところ」は,様々な意味で使われることがあります。次の「ところ」がどのような意味で使われているか,考えてみてください。

(4) このところ,晴天が続いている。
(5) クリーニングが仕上がるまで,およそ三日というところですね。
(6) 彼女に聞いたところでは,誠也くんの就職が決まったそうですよ。

(丸山 岳彦)

 

 

 

 

〈解答〉
(4) 「最近」「近ごろ」などと同様,現在であることを表す時間的な表現。
(5) その程度の日数であるという目安を表す数量的な表現。
(6) 後に続く内容が伝え聞いた情報であることを表す表現。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。