国語研の窓

第22号(2005年1月1日発行)

手話通訳と音声同時字幕システム

「ことば」フォーラムでは,2002年度から手話通訳を導入しています。各地の手話通訳者の方々には,込み入った日本語の世界を手話で紹介していただくよう,常にない努力をしていただいています。「ことば」フォーラムの話題は,専門用語,論文名,研究者名や地名などの固有名詞も多く,対談や質疑の内容は予測がつかない上,やり取りが当意であったりします。さらに話し言葉やコミュニケーションの話題は,内容そのものが手話の言語世界になじまない場合もあるようです。

さて続いて2003年度から「ことば」フォーラムでは,「同時字幕」も採用しています。これは,会場で話される講演や対談,司会にいたるすべての音声を,話者の別を示しながら数秒の時差でスクリーン上に逐語的な文字情報として表すものです。

この「音声同時字幕システム」は,もともと東京大学の聴覚障害者支援を目的に,東京大学先端科学技術センターと民間企業で共同開発されました。東京大学バリアフリー支援準備室をはじめ,民間では株式会社ビーユージーが業務を展開しています。

具体的には,会場から電話回線で音声を送り,復唱者が等質な音声に言い換えます。次にあらかじめ作った専門用語などの専用辞書を用い音声を文字化します。最後に変換の確認訂正を施した文字情報を電話回線で会場に戻し,それをパソコンで受けプロジェクタでスクリーンに映しています。

字幕は「等生化」の象徴のようなもので,ちょっと話題や話の展開について行けない,何だか耳慣れない術語が気になる,話者の言葉の特徴が聞き取れない,といった参加者の悩みへの解決方法として,健聴者の役にもたっているという面があります。OHP や実物投影で要旨を交替で書き示す従来の方法と比較してみても,語変換の精度を将来さらに高めれば,この同時字幕は有意義な情報伝達手段であると思われます。

(山田 貞雄)

手話通訳と音声同時字幕システム

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。