国語研の窓

第26号(2006年1月1日発行)

暮らしに生きることば

「きしょい」って何ですか?

「「きしょい」って何ですか?」これは海外で日本語を教えているある教師が学習者から受けた質問です。「きしょい」とは「気色悪い」という意味の最近の若者言葉ですが,当の教師もそのときが初耳だったそうです。教科書にも出ていないし,今までに教えたこともない言葉だったので,どこで聞いたのか逆に学習者に質問したところ,インターネット上やチャットの会話で見るということでした。教師の知らないところで,学習者が教師も知らない生の日本語に触れ,しかもそれを学習しているという現実に驚いたそうです。

国内外を問わず,日本語を学ぶ学習者が増え,海外では230万人を超えています(国際交流基金,2005)。国立国語研究所が,そのような海外の日本語学習者(タイ,韓国,台湾,マレーシア)を対象に,「日本語の授業以外の日常生活で,日本語を見たり聞いたりしたことがあるか」とたずねたところ,70~80%の人が「ある」と回答しました。具体的には,テレビ,アニメ,マンガ,ビデオ,インターネットなどを通じた日本語との接触が多く挙げられていました。

一昔前までは,例えば英語の学習と言えば,紙と鉛筆を使って辞書や教科書で学ぶ時代でした。しかし,今ではテレビやビデオ,インターネットなどを利用した学習,そして語学留学も自由にできるようになりました。それは日本語学習においても同様で,海外にいながらにして生きた日本語に触れたり,実際に日本語でやりとりをしたりすることもできます。交通や情報通信技術の発達により,言葉を学ぶ環境自体が大きく変化したと言えます。

このようにして,流行語,若者言葉,カタカナ語など,日々変化し,私たちが今まさに使っている日本語が,様々な媒体を通してそのまま海外に流出し,「日本語」として認識されています。教室で学ぶ教科書の日本語ではなく,今現実に使われている生きた言葉は,学習者にとってもやはり魅力的です。このように学習者が自由に接触し学習している日本語は,私たちの使っている日本語の今を映し出していると言えるのかもしれません。

(小河原 義朗)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。