第30号(2007年1月1日発行)
お正月の伝統的な遊びのひとつ,かるた。百人一首やいろはことわざかるた,地元の名所・名産・出身者を題材にした郷土かるたなどいろいろありますが,「方言かるた」も各地で盛んに作られています。
『津軽弁カルタ』『いろはにほへとっとり方言かるたでつづるとっとり言葉』『播州弁かるた』『八女市方言かるた』『全国方言カルタ』など各地のものが見つかりました。北から順にいくつかあげてみましょう。
おっちゃんこしてるおんちゃん。ちゃんこかったのに, おがったねえ。 (座っている弟。 小さかったのに, 大きくなったねえ。)『北海道かるた方言編』
けっけのけで遊びの番こ決め(じゃんけんぽんで遊びの順番を決める)『利尻の方言かるた』
なんともねと隣からもらった赤まま(ありがとうと言って隣からもらった赤飯)『越前勝山方言いろはかるた』
ちょかでいちびりおっちょこちょい(軽率で落ち着きがなく,調子に乗って騒ぐ,早とちりな人)『なにわいろはかるた』
らりくちゃになっちゅーけんど怒られん(とりちらかしているけれど怒ってはだめ)『土佐弁かるた』
方言かるたには,人々の方言に対する思い入れと遊び心を感じ取ることができます。また,古くから地元に伝わってきた方言を守ろう,残そう,といった心情もくみとれます。
伝統的な方言が急速に変化し,失われていく中,生活のことばである方言への関心や評価,社会における方言の位置づけも変わってきました。かつては,方言をなくそうという動きもありましたが,現在では,方言はひとつの「文化財」と考えられています。
また,土産物としての方言グッズや,最近の方言ブームなど,方言は,「商品」としての方言,「娯楽」としての方言,といった側面も見せています。
方言を取り巻く状況の変化を背景として,方言が現代社会の中でどのような働きをしているのかを多方面からとらえ,生活の中での方言についての意識の変遷を見つめていきたいと思います。
(井上 文子)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。