第31号(2007年4月1日発行)
「恋」は楽しいものでしょうか。悲しいものでしょうか。
『岩波国語辞書』(第6版)では《恋》の項で「▽本来は,(異性に限らず)その対象にどうしようもないほど引きつけられ,しかも,満たされず苦しくつらい気持を言う。(中略)「 ―は楽し,野辺の花よ」のような言い方は,1910年代ごろからのもの」と説明されています。つまり,「楽しい恋」は比較的新しい用法になるようです。
人は「恋」をどう語っているのか,そのおおよその傾向をweb上で分析する方法があります。たとえば東京工業大学奥村研究室で開発,公開されているblog Watcher3(http://blogwatcher.pi.titech.ac.jp/)による「評判情報検索」です。ブログと呼ばれるWeb上の日記を大量に収集した結果からあるキーワードについての評価傾向を自動的に判別します。「恋」の検索結果は図のようになりました。「恋」をポジティブに評価する語として「いい,素敵な,好き,楽しい」が,ネガティブに評価する語として「悲しい,辛い,苦しい,難しい」などがあげられています。
先の辞書の《恋う》の項には,「古くは「君に恋ひ」のように「に」を使うのが本則だったのが「を」に移った。意味の重点が,対象に引き付けられることから,対象を心の中で追い求めることに傾いたからと見られる」という注釈も載っています。ところが,web検索や新聞記事検索などを試してみると「を恋する」よりも「に恋する」の用例の方が多く検索され,現代語では「引き付けられる」傾向に戻りつつあるかのようにみえます。
みなさんにとって,「恋する」対象は,引き付けられるものでしょうか,追い求めるものでしょうか。
(柏野 和佳子)
図 「恋」の評判情報検索の結果(2007/02/28時点)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。