第37号(2008年10月1日発行)
日常の話しことばを観察すると,「これだけ」を「コンダケ」,「それで」を「ソンデ」,「今のとこ」を「イマントコ」といったように,「ら」や「の」を「ン」と発音することがあります。同じ現象が「もの(物/者)」にも見られます。
入れ物,店屋物,品物,落とし物,買い物,
浮気者,曲者,働き者,若者,やっかい者
どの例も「イレモン」「テンヤモン」「ウワキモン」「クセモン」のように,「モン」と発音することができそうです。しかし次の例はどうでしょうか。
物入れ,物音,物干し,物悲しい,物の怪,
物まね,物陰,物語り,物見遊山,者ども
「モンイレ」「モンオト」「モンホシ」…。あまり「モン」とは言いそうにありません。一体何が違うのでしょうか。例を比べると,「もの」が語の末尾にある時は「モン」とも発音されるのに対し,語の先頭にある時はあまり「モン」とは発音されない,という傾向が見えてきます。次の例はどうでしょう。
(1) 彼は物をよく壊す。
(2) 彼は昨日買った物を壊してしまった。
(1)は「物」が単独で用いられていますが,このような場合に「モン」とはあまり言いません。しかし(2)の「昨日買った物」のように「物」の前にそれを説明する要素がある場合には「モン」と言うことができます。「入れ物」や「浮気者」も「物/者」の前にそれを説明する要素があるという意味では同じですね。「モン」という発音の背後にはこのような共通点が見られるわけです。
さて,冒頭に挙げた「これ/それ」も,「コンダケ」「ソンデ」とは言えても,「コンマデ」「ソンガ」とはあまり言いませんね。どのような時に「コン/ソン」と言えるのでしょうか。「もの」と同じように,色々な例を比較しながら考えてみましょう。
(小磯 花絵)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。