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2019.03.18 2019年03月18日 プレスリリース

ヨーロッパに渡ったキリシタン資料が解き明かす中世日本語―天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』画像Web公開

日本が戦国時代であった16世紀の中頃以降、ヨーロッパから多くの宣教師が渡ってきたことは、みなさまよくご存じのことと思います。彼らはキリスト教の布教のために日本語を習得しました。宣教師が日本語の学習のために使用した書物から、当時の日本語の姿を知ることができます。

世界に1冊!大英図書館所蔵 天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』画像をweb公開しました

3月1日、国立国語研究所は大英図書館からの提供で、大英図書館所蔵・天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』の画像をweb公開いたしました。

学術的な意義があるのはもちろんのこと、ただ眺めるだけでも楽しめるのではないでしょうか。下記のリンク先でどなたでもご覧いただけます。

大英図書館蔵 天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』画像
https://dglb01.ninjal.ac.jp/BL_amakusa/

大英図書館所蔵・天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』とは

16世紀末から17世紀にかけて、イエズス会の人々がヨーロッパの印刷機を持ち込み、主に日本国内で刊行した書物をキリシタン版と呼びますが、その中で特に熊本県天草 で刊行されたものを「天草版」と言います。

天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』は、16世紀の日本を訪れたキリスト教宣教師の、日本語学習向けに編集された読本(リーダー)です。3作品が1冊に装丁されています。

※『伊曽保物語』は、『イソップ物語』を室町末期の話しことばに訳したものです。

九州地図(天草の場所)

世界に一冊

大英図書館 が所蔵する1点しか見つかっていない、「天下の孤本」です。天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』が大英図書館にわたった経緯はよく分かっていません。

大英図書館 British Library : 1972年に大英博物館から独立したイギリスの国立図書館。蔵書の質・量ともに世界最大。

大英図書館
大英図書館 Photo by Steve Cadman

中世日本語の発音・話しことばが分かる

口語体の文章が、ポルトガル語式のローマ字で書かれていることから、室町時代の日本語の話しことばや発音を知ることのできる、貴重な資料です。

※当時は、書きことばと話しことば、発音と文字が大きく離れていたため、かな書きの文語文から話しことばや発音を知ることは困難でした。

例)『平家物語』 表紙

伊曾保物語
NIFON NO COTOBA TO Hiſtoria uo narai xiran to FOSSVRV FITO NO TAMENI XEVA NI YAVA RAGETARV FEIQE NO MONOGATARI.

(日本のことばとHistoriaを習い知らんと欲する人の為に世話に和らげたる平家の物語。)

ハ行を「f」の音で発音していたことが分かります。

印刷史における意義

天正遣欧使節肖像画
『天正遣欧使節肖像画』(京都大学附属図書館 所蔵)

この本は、1592~1593年に印刷されました。日本に伝来した西洋印刷術(活字印刷)による草創期の印刷物であるため、印刷史の観点からも注目されています。また、『平家物語』は、伝本系統の観点から、日本文学研究においても注目されています。

カラーの精細な画像

天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』は、影印本(写真版、勉誠出版、1976年)が公刊され、翻字本文や索引も出版されてきたことによって、研究環境が充実してきました。しかし、写真は白黒で裏写りもあり、精密な判読を行う上で限界もありました。さらなる研究環境の向上を決意した大英図書館の協力により、カラー画像(JPEG形式、1頁あたり1MB以下)の公開が実現しました。

影印本との比較
影印本では不確かだった部分も、今回公開する画像では はっきりと読み取ることができます。

※より高画質の画像(TIFF形式)を希望する場合は、大英図書館から有償で提供を受けることができます(https://www.bl.uk/digitisation-services/ordering-images)。

本の状態が分かる

表紙から裏表紙まで、白紙の遊び紙も含めて、順番に1ページずつ並べ、また、サムネイル画像 は本の見開きになるようにし、大英図書館本の現在の姿をある程度実感できるようにしています。

本のサムネイル画像

パブリックドメイン

大英図書館提供の画像はパブリックドメインです。Web環境さえあれば世界中のどこでも、誰でも無償で利用できる状態で公開することで、日本語学や印刷史の発展だけでなく、教育の場や出版関係など、様々な場面での利用が期待できます。

日本語歴史コーパスからのリンク(予定)

画像公開にあわせて、『日本語歴史コーパス』もアップデートし、web上のコーパス検索アプリケーション「中納言」https://chunagon.ninjal.ac.jp/chj/
の検索結果から、検索語の掲載ページの画像を閲覧できるように、リンクを設けます(3月末予定)。

【日本語歴史コーパス】

https://clrd.ninjal.ac.jp/chj/

  • 上代(奈良時代)から近代(明治・大正)まで、時代に沿ってすべてカバーすることを目標に構築・公開中の言語データベースです。
  • 全てのテキストに読み・品詞などの情報が付与されているため、従来の紙の索引より、高度な検索や集計が行えます。日本文学の研究にも役立ちます。
  • 登録が必要ですが、「中納言」上で、無料で利用できます。
  • キリシタン資料については、校訂本文(漢字仮名交じりテキスト)・原文(ローマ字)両方の前後文脈が確認できるようになっています。
  • 底本や原文画像へのリンクがあり、当該箇所の現代語訳や原本画像を確認することができます。

プレスリリース資料(PDF)

お問い合わせ

国立国語研究所
TEL : 0570-08-8595(ナビダイヤル)
FAX : 042-540-4334
お問合せフォーム : https://www.ninjal.ac.jp/cgi-bin/form/contact/form.cgi