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2019.12.09 2019年12月09日 イベント案内

『ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』展 レポート(2)

国立歴史民俗博物館で開催中の『ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』展 レポート第二弾は、原山浩介 准教授(国立歴史民俗博物館)のインタビューです。

そもそもこの展示は、どういった経緯で国立歴史民俗博物館と国立国語研究所との共催になったのでしょうか。また、歴史学と言語学との出会いは研究に何をもたらしたのでしょうか。原山先生におうかがいしました。

原山浩介 准教授(国立歴史民俗博物館)インタビュー

原山祐介准教授インタビュー

原山先生 : この展示の元となった研究(人間文化研究機構ネットワーク型基幹研究プロジェクト「北米における日本関連在外資料調査研究・活用―言語生活史研究に基づいた近現代の在外資料論の構築」)をスタートさせる時に最初から、研究成果を公表する手段として展示を入れると決めていたんですよ。それが出発点なんです。言語学といっても幅は広いですし、歴史学も幅を広くとれば、朝日祥之先生(国立国語研究所 准教授、上記プロジェクトのリーダー)がやっているような仕事も入ってきます。そこで、その成果を含みこませることにしました。

今回の展示は、言語学、民俗学、一般的な意味での近現代史、アメリカ史、法制史、移民史、グローバルヒストリーといったいくつもの学問領域・研究分野の蓄積に加え、今までに積み重ねられた膨大な「パブリックヒストリー」とも呼ばれるアカデミックな世界にとどまらない歴史叙述の成果もふんだんに反映しています。いくつもの層をなす形で積み重ねられてきた知見を踏まえながら展示を作ることに意味があるだろうし、それによって面白い展開ができるのではないかと考えました。

ですが、やろうと思っていてもできなかったことはいっぱいあります。一番やり残しているのは、たぶん朝日先生とライネケの研究をしていないという問題があって…

朝日先生 : ライネケ(Reinecke, J.E.)というのはハワイの言語学者であり、社会活動家でもある人で、この展示の内容にぴったりくる人のひとりなんです。彼についてやれなかったのは非常に心残りでした。

原山先生 : 僕の予定では、すでにハワイの労働運動についての本も一冊出しているはずだったんですが、それもまだ全く、影も形もないので…。ということで、宿題もいくつか残っているんです。ただ、今回の展示をやってみて、言語というものは、例えばピジン・イングリッシュなどは、人に端的に説明するのが、実は難しいのだということに気づきました。

言語にまつわることを説明していく困難さが、今回の展示で非常によくわかった。たぶんそういったことっていうのは、言語学研究の中にはたくさんあるんでしょう。それをどうやって一般の人にわかってもらえる形にできるかが、非常に大きな課題になるんだということがわかりました。

それから、言語の変化みたいな部分は、本当はもっと突っ込んでやってもいいかなと思っています。そうすることで、例えばハワイでの日本人・日系人同士の関係についても、もうちょっと生々しい様子が見えてくるかもしれません。今回の展示を通じて、言語というものの持っている可能性というのは非常に大きいと気づきました。

実は、ほかにもやり残したことがありますし、実は展示内容そのものが新しい研究課題の提示になっているものもあります。今回の「宿題」を、きちんと記録にとどめて、次につないでいくことが重要だと思います。

(国立歴史民俗博物館にて)

原山先生、朝日先生によるギャラリートーク開催!

展示期間中、原山先生・朝日先生によるギャラリートークが開催されます。ガイドツアー形式で、先生の詳しい解説を聞きながら展示をご覧いただけます。詳細は国立歴史民俗博物館のサイトをご覧ください。

ギャラリートーク開催

実施日
  • 12月15日(日) 13:30~ 、担当者 : 原山浩介 先生、朝日祥之 先生
  • 12月22日(日) 13:30~ 、担当者 : 原山浩介 先生、朝日祥之 先生

※ 入館料が必要となります。
※ 日時は予告なく変更する場合がありますのでご了承ください。

公式サイト

次回の記事は、『ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』展 レポート第3弾です(レポート作成:国立国語研究所 広報室 青山)。

ネットワーク型基幹研究プロジェクト
「北米における日本関連在外資料調査研究・活用 ― 言語生活史研究に基づいた近現代の在外資料論の構築」

プロジェクトリーダー : 朝日祥之 准教授(言語変異研究領域)

欧米に点在する日本関連資料の中には、学術的、社会的に重要であるにもかかわらず、総合的な調査が十分でないものがあります。「ネットワーク型基幹研究プロジェクト」は、そのような資料を保有する研究機関や国内外の大学などと連携して調査研究を行うことを目的としています。

国語研では、主として近現代に北米に移住した日本人、つまり北米の日系移民に注目し、言語史・社会史・生活史を基点としながら、日系社会に関連する資料についての資料調査や研究を行っています。

日系人に関わる音声・映像資料に中には、劣化や廃棄リスクが高まっているものがあります。そのようなデータを救出し、資料の評価を行うとともに、日系社会の歴史の中でもこれまでは十分に光が当たってこなかった領域を扱うことで、移民をめぐる新たな資料論へとつなげることをめざします。

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