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2019.12.13 2019年12月13日 イベント案内

『ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』展 レポート(4)

ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』展レポートにお付き合いくださり、ありがとうございます。おかげさまで研究者によるギャラリートークも大好評とのことで、嬉しい限りです。第四弾のテーマは「戦争」です。

第二次世界大戦と日系人社会

1941年12月7日(ハワイ現地時間)、真珠湾攻撃により日本とアメリカ合衆国は戦争に突入します。攻撃のわずか3時間後には、ハワイ諸島内で「敵性外国人」の拘束が始まり、日本人、ドイツ人、イタリア人と、そのこどもである「二世」までもがそれぞれの管轄区の収容施設に拘留されたそうです。

比嘉太郎を写真と資料で紹介する展示コーナー

とりわけ沖縄にルーツを持つ日系アメリカ人兵士のなかには、沖縄戦に参加し、慣れ親しんだ沖縄と対峙するという数奇な運命に巻き込まれた人たちがいます。そのひとりが地元沖縄の新聞『琉球新報』で連載小説の主人公にもなった比嘉太郎です。

沖縄に上陸した日系アメリカ人兵士 ―― 比嘉太郎

比嘉太郎(Thomas Taro Higa)はハワイで生まれた後、日本で教育を受け、アメリカに帰国した日系アメリカ人です。太郎は9歳まで沖縄の祖父母の元で暮らしました。その後、就職のために大阪に向かい職を転々とします。ハワイに戻ってからは、日系人として過酷なヨーロッパ戦線に従軍します。そこで民間人の惨状を目の当たりにしたことが、後の太郎の行動につながったようです。

日本語、とりわけウチナーグチ(沖縄のことば)が堪能な太郎は、アメリカ軍の語学兵として沖縄に上陸します。そこで彼の取った行動は殺戮ではありませんでした。彼はガマ()に隠れた住民に向けて、安心して出てきてください、と説得していったのです。呼びかけたガマの中には、かつての恩師や友人もいたそうです。戦争、沖縄、差別、太郎の日系アメリカ人としてのアイデンティティ。その後の彼が取った行動も含め、ぜひおすすめしたい展示のひとつです。

※ ガマ=沖縄のことばで「洞窟」のこと

戦後、沖縄支援を訴える比嘉太郎の資料

ざっと紹介してきましたが、ハワイ展にはまだまだたくさんの見どころが用意されています。日本とハワイの大きな歴史の中で、さまざまなことに折り合いをつけながら生きてきた日系移民の150年は、想像以上に濃く面白いものでした。展示は12月26日(木)までとなっておりますので、興味を持たれた方はぜひお出かけください。

(レポート作成 : 国立国語研究所 広報室 青山)

久留島浩 国立歴史民俗博物館長 インタビュー

数多くの展示を手掛けてこられた国立歴史民俗博物館。一方、「ことば」という形を持たないものを扱うゆえに、展示を中心にする活動はあまり行っていなかった国語研。今回のハワイ展をきっかけに実現した「ことばと展示」について、久留島浩 国立歴史民俗博物館長にお話をおうかがいしました。

国立歴史民俗博物館 久留島 浩 館長

現在、木部先生(国立国語研究所 木部暢子 教授)たちと一緒にモバイルミュージアムという展示をやっているのですが、あのような形で「ことば(方言など)」を視覚化する試みがうまくいけば、いろんな可能性があるんじゃないかと思います。

私たちは歴史文化資料の保全のための大学・大学共同利用機関間ネットワーク事業というのをやっています。そのなかで、私たちが落としていたのは「ことば」の問題だったということに気がつきました。

実は、江戸時代に地域で作成された史料の中にも方言は入っているんです。地域性を持ったことばであるがゆえに、聞き取りをしたものの中にも方言がいっぱい入っています。また、道具の呼称もその地域の「ことば」と関わっています。そういうもの全てを、私たちはきちんと理解してうまく表現してこなかったんです。

だからそういう意味では、本当に今回初めて、ことばという点で国語研と共同研究ができるのだという確信を持つことができました。実は、この企画も「日系の人たちが自分たちのことばをどう繋いでいくのか」という話が展示のなかで示せたらいいねっていうことから始まったんです。

今回、朝日さんたちと一緒にやった展示では、目に見える資料が中心にならざるを得なかったために、あまりうまく示すことができなかったかもしれません。だけど、ホレホレ節のように、音声があり出身地域の方言が入ったものは、それがどのように変化していくのかを見てもらうことで、そこに住んできた人の地域性や出身地の問題などを考えてもらうヒントになったと思うんです。

今回だけですべてが実現できるはずはないので、原山さん(原山浩介 准教授)も言っていたように、今回の展示をすることで国語研と共同で「何か」ができるということを再確認できたこと、研究の過程を少しですが可視化できたこと、しかもそれを様々な形でできたことで、次のステージに行けるんじゃないかなと思います。

今後、ことばと民俗とを媒介にすれば、一緒にやれる範囲がさらに広がるのじゃないかと思うんです。ハワイ展をひとつのきっかけとして、ぜひやらせてもらえればと思います。

『ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』開催概要

期間 2019年10月29日(火)~ 12月26日(木)
場所 国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
〒285-8502 千葉県佐倉市城内町 117(交通アクセス
料金 一般 : 1000(800)円/大学生 : 500(400)円
小・中学生、高校生 : 無料/( )内は20名以上の団体
※総合展示もあわせてご覧になれます。
※高校生及び大学生の方は、学生証等を提示してください。
(専門学校生など高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
※障がい者手帳等保持者は手帳提示により、介護者と共に入館が無料です。
※博物館の半券の提示で、当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。また、植物苑の半券の提示で、当日に限り博物館の入館料が割引になります。
開館時間 9時30分~16時30分(入館は16時00分まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。
休館日 月曜日(休日の場合は翌日が休館日となります)
主催 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館、国立国語研究所
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館
協力 ハワイ大学マノア校図書館、Hawaii Times Photo Archives Foundation、ハワイプランテーションビレッジ、ビショップミュージアム、スタンフォード大学フーヴァー研究所 ライブラリ&アーカイブス ジャパニーズ・ディアスポラ・コレクション、JICA横浜 海外移住資料館、天理大学附属天理参考館、東京大学史料編纂所、日本ハワイ移民資料館(山口県周防大島町)
後援 ハワイ州観光局
協賛 UCC上島珈琲株式会社
お問い合わせ 展示の詳細につきましては下記のサイトをご覧ください。

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