国語研の窓

第4号(2000年7月1日発行)

連載:国立国語研究所の紹介(4)

語彙調査の成果から

国立国語研究所長 甲斐 睦朗

0 はじめに

国立国語研究所が現在の建物で調査研究に取り組みはじめて早くも40年になろうとしています。敷地内の樹木は建物と競うばかりに生長して青々と繁った枝葉を大空に広げています。

さて、国立国語研究所は、創立以来、数多くの報告書を刊行し続けています。その中から今回は語彙調査に関連した報告書を3冊取り上げます。

1 『分類語彙表』 昭和39(1964)年刊

国語辞典の多くは、五十音順に配列した見出しに意味や例文などを付けるのが一般的ですが、この『分類語彙表』は、ことばを品詞と意味とで分類することを特徴とする語彙資料です。『現代雑誌九十種の用語用字』第一分冊(1962)の使用度数の高い上位12,000語を中心に、阪本一郎氏の『教育基本語彙』に選ばれた22,500語を加えて整理した32,600語を品詞によって大きく4グループに分け、さらにその中を意味によって合計850の項目に分類しています。この文献は、これまで多くの版を重ね、国語学はもとより、日本語教育、日本語情報処理の分野で活用されています。現在、収録語数を増やした増補改訂版の編集を進めています。

『分類語彙表』 昭和39(1964)年刊

2 『電子計算機による新聞の語彙調査』全4冊 昭和45~48(1970~73)年刊

この報告書は、全国紙3紙の朝夕刊全紙面1年間分を対象とした標本抽出による語彙調査の結果をまとめたものです。新聞の語彙調査は、国立国語研究所がはじめて電子計算機を使って行った語彙調査です。報告書では、それぞれの語の使用度数、品詞、語種、単位の切り方などによる各種の分類を提示しています。例えば「短単位」で度数5以上は、13,000語を超えています。「短単位」とは、ことばを数えるための単位の一つです。例えば、「電子計算機」は「電子/計算/機」と分割され、3語と数えられます。本調査における度数30以上の異なり約2,700語は、国語辞典の重要語の選定によく使われてきました。

『電子計算機による新聞の語彙調査』全4冊 昭和45~48(1970~73)年刊

3 『日本語教育のための基本語彙調査』 昭和59(1984)年刊

この報告書は、外国人のための日本語教育の基礎資料として作成されたものです。上記1で紹介した『分類語彙表』に収録されている約32,600語のそれぞれについて、専門家22人に「学習すべき一般的・基本的な語彙」かどうかの度合いを3段階で判定してもらい、その結果を分析し、一覧表にまとめました。選定された基本語は6,000語強です。この中には、より基本的な語彙として選ばれた2,000語強を含みます。それぞれの語には、先行する9種類の語彙資料における収録状況が示されています。この報告書は、これまでの報告書の中では『分類語彙表』と並んでよく利用されています。日本語教育に携わる人が必ず活用する参考書の一つです。

『日本語教育のための基本語彙調査』 昭和59(1984)年刊

これらの文献は、国立国語研究所、国会図書館、主な公立図書館で見ることができます。

国立国語研究所は、これからも、大学の研究室などでは取り組むことができない大規模な基礎研究、また、年月をかけてじっくり取り組まなければならない長期的な調査研究に立ち向かう所存です。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。