第20号(2004年7月1日発行)
笹原宏之,横山詔一,エリク=ロング編
税込み2,730円 A5 320ページ 2003年11月 三省堂
文字には,同じ字であってもその形(字体)に揺れが見られることがあります。特に漢字に顕著で,例えば学校で教わる「国」という字には,「國」や「圀」,さらに「囗」などの形も見受けられます。この「國」に手偏のついた「」にも,「掴」のような字の形が現れています。こうした異なる字体をもつ漢字をそれぞれ「異体字」と呼びます。ほかにも,「区」「區」,「」「鴎」などを目にすることがあるでしょう。
これらの異体字が,どこでどのくらい使われているのかという実態については,書籍,雑誌などを除き,ほとんど明らかになっていませんでした。そこで,本書では新聞,百科事典のほか,地名が書かれた資料を対象として取り上げ,大規模な調査を通じて,その使い分けの傾向などの実態を把握しました。
また,そうした複数の異体字の中から,どれかを選択する際の人間の意識つまり「漢字心理」について,認知科学の方法による調査を紹介し,簡潔かつ分かりやすく解き明かします。本書は,日本語学,漢字研究と認知心理学という各面から,漢字の使用とその背後にある意識,それらと相互にかかわっている施策を,「漢字環境」としてとらえました。
さらに,使い方に難しい面のある字体・字形・書体,正字・俗字・略字や,常用漢字,印刷標準字体,JIS漢字,人名用漢字などの用語とその内容についても,それらの中国や日本での歴史を含め,具体的に解説しています。
巻末には,現在行われている異体字を集めた一覧表が付いています。これは,本文に出てくる異体字の索引も兼ねたものです。この索引から,何か特定の漢字を選び出して,本文を拾い読みしていくことも可能です。異体字の動態と人間の意識と国の決まりとの相互の関連を多角的に理解する一つのきっかけになるかもしれません。
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。