国語研の窓

第28号(2006年7月1日発行)

「第2期中期目標・中期計画」がスタート

1.中期目標・中期計画とは

平成18年4月から,国立国語研究所は独立行政法人として「第2期中期目標・中期計画」の期間に入りました。平成13年4月に独立行政法人となったとき,第1期の中期目標・中期計画の期間は,平成18年3月までの5年間と定められました。その第1期5年間が終了し,新たに第2期が同じく5年間の予定でスタートしたわけです。

独立行政法人は,所轄する大臣から示された中期目標に沿って自ら中期計画を立て,大臣の認可を受けたうえで事業を行うことになっています。国立国語研究所の場合は,文部科学大臣から示された中期目標を受けて,それを達成するのにふさわしい具体的な中期計画を練り上げ,大臣の認可を受けてから実行に移していくといった手順になります。

2.事業の根本的な見直し

独立行政法人の事業は,必要だからという理由で何でもやれるわけではありません。必要であると同時に,それが本当に国として実施しなければならない事業であるかどうかが問われます。「民間でやれるものは民間へ」ということです。また,複数の機関が似たような仕事をしていないかどうかも厳しくチェックされます。「他の機関に任せるべきものは他の機関へ」ということです。

国立国語研究所についても,平成17年度末までに行われた国の機関や独立行政法人の全般に及ぶ組織・業務の見直しの動きの中で,このような組織・業務の原点に立ち返った根本的な見直しが行われました。第2期中期目標・中期計画は,その結果が十分に反映されたものになっています。

3.国立国語研究所の任務と中期目標

上に述べた根本的な見直しの過程で,国立国語研究所の任務が改めて確認されました。次ページの図の左側にあるように,その任務は,「『国民の言語生活の向上』と『外国人に対する日本語教育の充実』への貢献」ということです。そして,この任務を遂行するために何をすればよいのか,現実の日本社会に目を向けて検討した結果,四つの必要な事柄が浮かび上がってきました。この4点をふまえて設定されたのが中期目標というわけです。文部科学大臣から示された中期目標の骨子は,図の右側の4本の柱にまとめられます。

国立国語研究所の任務と中期目標(平成18年度~22年度)

4.国立国語研究所の中期計画

国立国語研究所の中期計画は,中期目標の4本柱に対応して立てられています。中期計画の具体的な内容を紹介しましょう。

【1.国語の調査研究】

中期目標の「1.国語の記録・保存及び国語の実態把握と問題点・課題等の提示による国語政策への貢献」を達成するために,次の(1)(2)(3)を基幹的な調査研究として,また,(4)を喫緊の課題に対応する調査研究として実施します。
(1)大規模データベースの構築により国語の使用実態とその変化を効果的・効率的に把握する。
(2)国民の多様な言語行動・言語意識・言語能力に関する調査研究を行う。
(3)外来語言い換え提案など国民の言語生活の向上に資する提案を行う。
(4)敬語, 漢字, 国語力等に関する調査研究を行う。

【2.日本語教育情報の作成・提供】

中期目標の「2.日本語教育機関等に対する日本語教育の内容の質的向上を図るための指針となる情報の提供」を達成するために,次の(5)(6)(7)を実施します。
(5)「国内で使用されている日本語の最新の使用実態に関する情報」と「外国人が学習目標とすべき日本語に関する情報」を集積した日本語教育データベースを構築する。
(6)日本語教育データベースをもとに,日本語教育機関が活用しやすい形態で日本語教育の内容の指針となる情報を提供する。
(7)インターネットの活用,研修・セミナー等の開催により,効果的・効率的な情報の提供・普及を図る。

【3.情報の収集・蓄積・発信】

中期目標の「3.調査研究の成果公表及び資料・情報の提供等,国民に対する効果的かつ効率的な情報発信」を達成するために,次の(8)(9)を実施します。
(8)調査研究成果の公表の多様化・活発化,並びに普及広報の媒体の複合化,テーマの重点化を図る。
(9)情報・資料の収集・整理等の継続的実施,並びに日本語・日本語教育情報の提供システムの一元化・強化を図る。

【4.連携協力と人材育成】

中期目標の「4.現代日本語の専門研究機関として積極的貢献を果たすための内外関係機関との連携協力」を達成するために,次の(10)(11)(12)を実施します。
(10)研究者の受入れ及び派遣等を行う。
(11)国際シンポジウムを開催する。
(12)連携大学院事業に参画する。

5.組織の改編と体制の整備

第1期中期計画の期間は,「研究開発部門」「日本語教育部門」「情報資料部門」の3部門,そして各部門に2領域を置く「3部門6領域」という体制のもとで研究事業を進めてきました。しかし,第2期中期計画を開始するに当たり,上に紹介したような研究事業を確実かつ円滑に推進するために,かなり大がかりな組織の改編と体制の整備を行いました。

具体的には,部門レベルの組織は従来と同じく三つのままですが,「日本語教育部門」だけは名称を「日本語教育基盤情報センター」と改めました。これは,日本語教育における研究所の任務が,この分野の基盤情報の充実にこそあるという認識に基づくものです。また,従来の「領域」という単位を廃止して,個々の課題への対応がより一層明瞭な「グループ」という単位を作り,それを基盤にして研究事業を推進していく体制を整えました。

もちろん,このような所内の組織は,それぞれが分担する仕事に狭く閉じこもることなく,互いに連携する必要があります。研究所は,そのような連携の輪を,所内ばかりでなく国の内外の機関や研究者にも広げながら,「開かれた研究所」としてこれからも着実に研究事業を進めていきます。

(相澤 正夫)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。