国語研の窓

第28号(2006年7月1日発行)

暮らしに生きることば

医学・医療の専門用語

病院の掲示に「インフォームドコンセント」や「セカンドオピニオン」などの外来語を目にします。人間ドックの問診表には「MRI」「CT」などの略語や「喀痰(かくたん)細胞診」などの漢語が使われています。あなたは,ここにあげた五つの専門用語の内,説明や言い換えが添えてなくても分かる言葉がいくつありますか?

医学・医療用語には,患者・家族にとって分かりにくい外来語,略語,漢語の専門用語がたくさんあります。中には,説明しようとすると,さらに難解な専門用語を使って人間の身体の仕組みから説明しなくてはならない言葉や,一般の人になじみのある語彙(ごい)を使って言い換えると,誤解を生じてしまう言葉も少なくありません。

国立国語研究所の世論調査では国民の約6割が,冒頭にあげたような医学・医療の専門用語の分かりやすい説明や言い換えを望んでいます。そのような期待に応え,専門家と非専門家の橋渡しをつとめようと,国立国語研究所では,難解な専門用語の分かりやすい説明や言い換えを提案しています。また,医師の皆さんと協力して,「医療コミュニケーションの適切化」という研究課題に取り組んでいます。この課題では,多くの医師・歯科医師の皆さんの協力を得て,調査を実施し,討論会を開きました。

調査に回答した医師の9割近くが,「セカンドオピニオン」や「CT」などの専門用語を患者に理解してもらいたいと考えています。また,難解な医学用語を使わなければならないとき,「手書きのメモや図解を活用する」(93.7%),「詳しく補足説明する」(61.7%)などの工夫をしています。

討論会では,「セカンドオピニオン=ほかの医師の意見を聞いて,どんな診療を受けるか考える参考にすること」「ウイルス=薬ではなかなか退治できないばい菌」「抗生剤=細菌を退治する薬」などの分かりやすい説明も検討しました。

医療の分野に限らず,専門家と非専門家のコミュニケーションの適切化は現代社会のさしせまった課題です。この課題に貢献する調査研究を今後も続けていきます。

(吉岡 泰夫)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。