第34号(2008年1月1日発行)
12月は忘年会,クリスマス,年が明けるとお正月,新年会。とかく年末年始はお酒を飲む機会が増えます。ビール,焼酎,ワイン,ウィスキー,日本酒など,お酒の種類もさまざまです。お酒に合った食事,食事に合ったお酒を選ぶことも,楽しい食事のひとときを過ごしたり,健康と体調を気遣ったりするためには大切なことです。
ワイン選びならばソムリエに相談すればよいのですが,日本酒のことは誰にきけばよいのでしょうか。酒屋のおやじか,酒蔵の杜氏(とうじ)か,それとも,酒場の飲兵衛か。最近は,「唎酒師(ききざけし)」という日本酒専門のアドバイザーがいます。
「唎酒師」は,日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会が認定する資格で,1991年から始まっています。国語辞典で「ききざけ」をひくと,「聞酒」あるいは「利酒」と漢字表記が見られますが,この資格では「利」に口偏のつく文字を使っています。主催団体によると,「口をつかって,飲んで判断してもらいたい」という意図を込めて,「唎」の字を用いているとのことです。
資格の名称表記が「唎酒師」となったこともあって,日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会のWebページはもちろん,新聞,書籍,ポスターなどでも「唎」の字を見かけるようになりました。左の写真は酒販店のポスターの一部です。右の写真は飲食店の箸袋の一部です。また,『唎酒師葉石かおりの隠れ酒がうまい!』(講談社刊, 2004年)のように,「唎」の字は書名にも登場します。
さて,北原白秋の第二詩集『思ひ出』(明治44〔1911〕年刊)に,「酒の黴(かび)」と題する詩が収録されています。その一節に,
さかづきあまたならべて
いづれをそれと嘆かむ,
唎酒(ききざけ)すなるこころの,
せんなわれも醉ひぬる。
とあって,ここで「唎酒」が使われています。北原白秋は酒造を生業とする商家の出です。「唎」の字は,酒造業界で使われ続けてきた文字なのでしょう。口に含んで酒の味を吟味する,その情景が浮かんできそうな文字です。
(高田 智和)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。