国語研の窓

第36号(2008年7月1日発行)

ことばQ&A

「蛙観図」とは?

質問

新聞紙上で見た「蛙観図」とは何と読めばよいですか。その意味は何ですか。

回答

この質問をしてきた人によると,その記事の中で使われていた文脈中の意味として,地図の「俯瞰図(ふかんず)」に対する用語のようだった,とのことです。ところが,ひいてみた国語辞典には,どれにも項目がないというのです。

さて多くの語数の項目を立て,用法を実際の用例に基づきながら記述するタイプの国語辞典に,小学館『日本国語大辞典 第二版』があります。また,主に中国古典の伝統的な漢語を収録する漢和辞典に,大修館書店『大漢和辞典』があります。質問者の言う「ケイ‐カン‐ズ」の「ケイ」は,意符の「虫の部」に対する音符とおぼしき「圭(ケイ)」の字音からの類推による読み方です。実は「蛙」という字は音読みでは「ア」か「ワ」なので,「ア‐カン‐ズ」「ワ‐カン -ズ」などの項目を探します。しかし,どちらの辞書にもその見出しはありません。

では,実際どこで使われているのか,インターネットで検索をしてみます。すると,日本地図センター編『新版 地図と測量のQ&A』(東京 日本地図センター, 2003.5)の問 53に「仰見図,虫観図,蛙観図 Worm’s-eyes viewとは?」という資料のあることがわかりました。資料の見出しで,類義語や英語表現が判明しました。国会図書館でこの資料を確認してみましたが,「ア‐カン」なのか「ワ‐カン」なのか,ここでも読み方がわかりません。また列挙している類義語同士の関係についても詳細はわかりません。

そこで,専門用語の辞書類の出番です。国語研究所の書庫に,日本国際地図学会 地図用語専門部会編集『地図学用語辞典 増補改訂版』(東京 技報堂出版 , 1998.2)がありました。なかには「あかんず 蛙観図」の見出しがあり,そこには空見出しで「ぎょうけんず 仰見図」を見よ,と矢印で送っています。「仰見図」の項では,地図学の統一用語ではないが同義語の類として「虫観図」があること,また「鳥瞰図(ちょうかんず)」の対であることを明示しています。さらに「蛙観図(あかんず)」が,現在はほとんど用いられない語であることも明確になりました。意味は,地面や水平面から虫や蛙の見上げるような,非常に低い視点からえがいた透視図のことです。

このように日本語そのものを解説する辞書ばかりでなく,専門分野の術語を解説する辞書類もまた,重要な日本語資料と言えます。

(山田 貞雄)

※このコーナーは,当研究所に寄せられた言葉についての質問をもとに作成しています。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。