世界中で使われている絵文字は日本発祥だそうですね
絵文字はもともと、NTTドコモが1999年に世界に先駆けて開発したインターネット接続のiモードに搭載されたものです。しかし、現在世界のスマホやPCで使われているemojiとはかなり雰囲気が違いますよね。例えば、NTTドコモで最初に作られ「わーい(嬉しい顔)」と名づけられた は、
や
と比べると、シンプルでピクトグラム(注)に近いようなものでした。当時絵文字は、無機質な携帯メールの素っ気なくなりがちなメッセージにつけて、事物や気持ちを表し楽しい雰囲気を醸し出す便利な「文字」として、日本中にあっという間に広がりました。現在のSoftbankやauも矢継ぎ早に絵文字を開発して数もどんどん多くなっていきます。こうして絵文字は、2000年代の日本の携帯メールのコミュニケーションを語るには外せないアイテムとなります。日本にはもともと、文字と絵がともに競うようにしてひとつの世界を表現する絵画や文学、コミュニケーションの伝統があったことが、絵文字の発達を加速させたのかもしれません。
絵文字は若者の間では、友人や家族に対するプライベートな携帯メールのやりとりの中で、顔文字や記号、文字遊びなどの視覚的な要素とともに頻繁に使われ、特定の意味を表すというより、ノリやリズムを演出したり、色味や雰囲気づくりに貢献したり、句末に置かれて句読点代わりに用いられたりするなど、装飾的機能が目立つようになっていきました。ところが同時期の欧米では、携帯電話には文字だけのショートメールが使われていました。そこではエモティコン、スマイリー、フェイスマークなどと呼ばれる、コロンやカッコを組み合わせた顔文字(:-)、:)、 (: など。90度頭を傾けて見る)が使われる程度で、日本の絵文字のようなものはいっさいなかったのです。
ですから、アメリカで開発されたiPhoneが日本で発売された当初、絵文字が全く使えず、視覚に訴えるコミュニケーションに慣れた日本人、特に若者にとっては味気ないものでした。当時日本の携帯電話会社で唯一iPhoneを販売していたソフトバンクの孫社長は、日本でのiPhoneの普及には絵文字の導入が欠かせないと強く主張し、絵文字を世界標準にするUnicode化が進められることになります。そして2011年にUnicode化された絵文字が ‘emoji’ としてiPhoneに搭載されるようになると、一気に世界中に広がっていったのです。
2015年にはオックスフォード辞典が毎年選ぶ「ワード・オブ・ザ・イヤー」に、emojiの中の「泣き笑い」の表情を表す ‘Face with Tears of Joy’ が選ばれました。2016年には、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が、NTTドコモが作成した最初の絵文字 176個を常設収蔵品として購入して話題になりました。emojiの世界的な広がりと歴史・文化的な重要性を象徴するできごとですね。
というわけで、絵文字はもはや日本独自のものではなくなりました。しかしemojiの中には、🍥(なると巻き)や(温泉)、💁(案内嬢)のように、日本人や日本をよく知る人でないと分かりにくいものもあり、意味の取り違えが起こる恐れもあります。さらに、世界的な浸透の中で、人々の多様性に対応して皮膚の色の種類を増やすなどの配慮をするようにもなってきています。恋人や手をつないだ二人を描いたemojiを使いたい場合も、👫(男女)だけではなく、👬(男男)や👭(女女)の選択ができるように新たなデザインが加えられていく方向に進んでいるのです。この例が示すように、当初の絵文字がピクトグラムのような単純なデザインであったために考慮する必要が少なかったのに対して、具象性を持つemojiでは考える必要が出てきて、その数をどんどん増やしていかざるを得なくなってきているという点も興味深い現象ですね
。
(注)ピクトグラム : 非常口やトイレの目印、交通標識などに代表される、目につきやすくむだのない線や色で表される図記号をいう。