海外にもキラキラネームはありますか。漢字のない国ではどうキラキラさせるのでしょうか。
質問では「漢字のない国ではどうするのか?」とあるように、漢字の存在が「キラキラネーム」にとって必要であることに気づいているようですね。まさにそのとおりです。
では、漢字を使うことでどうして「キラキラ」するのでしょうか。カナ(ひらがな・カタカナ)だけではキラキラしません。漢字とカナは同じ「文字」の一種ですが、漢字にはカナにはない“意味”があります(表意文字)。キラキラネームはこの意味を取り出して、その読みからは想像できないようなものを表現しています。
たとえば、「黄熊」はふつうに読めば「きぐま」ですが、これをキラキラネームでは「ぷぅ」と読むそうです。かわいい子グマが出てくる有名なアニメのキャラクターの名前の当て字ですね。他にも、「星凛」は「せいりん」ではなく、「きらり」と読むそうです。まさにキラキラしています。このように、「通常ではそう読まない読みや当て字」のことを広くふくめて「キラキラネーム」と呼んでいます。通常ではそう読まないということから、「一般常識から離れた名付け」としても認識されているようです。
たとえば、身近な英語を見てみましょう。英語の文字はアルファベット、ABCです。日本語のカナと同じく、アルファベット一つ一つにも意味はありません。音を表わす文字です(表音文字)。ですから、既に説明したような日本語での漢字を使ったキラキラネームのようなことは理屈の上では不可能です。
ではキラキラネームはないかというと、イギリスとアメリカで“特徴ある”名前の調査を行った情報サイトによると、英語でも Jo king で joking「ジョーク」、Stu pittで stupid「馬鹿者」など、音を使った遊びのような名前があるようです。Sue Shiで Sushi「寿司」、Carrie Oakeyで「カラオケ」を意味するものも見られます(伊東ひとみ『キラキラネームの大研究』p.165)。漢字とは違って、その文字自体に意味がない文字を使う国では、こうして音だけで風変わりな名前を表わすしかありません。これが英語(および表音文字をもつ他言語)におけるキラキラネームと言えます。いずれにせよ、ここでも「一般常識から離れている」ということが特徴の一つだと言うことができるでしょう。
私が研究しているハンガリー語はヨーロッパの真ん中にある国ハンガリーで話されている言語ですが、この国には新生児男女に対して名前を付ける際に「ふさわしい命名リスト」(注1) があります。国民は基本的にこのリストの中から自分の子どもの名前を選びます。リストに載っていない名前を付けたい場合にはリストを作成したハンガリー科学アカデミー言語学研究所に申し立てをしないといけません。
ここでもし、ハンガリーの一般常識とかけ離れている名前と判断されると申請が却下されます。そうした認められなかった名前は毎月公開されています。このようなものは、大部分はまったく意味をなさず、単純に音の響きが良かったから(Lien「リエン」、Nuca「ヌツァ」など)、外国の有名人の名前そのまま付けてみた(Jeniffer「ジェニファー」、Krisz「クリス」など)、そうしたものが多いのですが、中には Felhő(フェルフェー「雲」)やHattyú(ハッチュー「白鳥」)といった意味のあるものもあります。こうしたものも、ハンガリーの一般常識からかけ離れているものとして認められなかったと言えるでしょう。
上記のハンガリーにおける命名で興味深い例があります。男の子に付けようとしたAndrea「アンドレア」は、その申請において却下されていました(2017年7月)(注2)。ハンガリーでは Andrea「アンドレア」は女性名だからです。しかし、国によっては、例えば、イタリアではAndrea「アンドレア」は男性名です(『世界の名前』p.133)。イタリア人と結婚したハンガリー人は悩ましいことでしょう。また、私の知り合いの女性は父親がスリランカ人で母親がハンガリー人なのですが、彼女は生まれた子にスリランカ風の名前を付けたいと思い、ハンガリー科学アカデミー言語学研究所に申請したのですが、やはり認められませんでした。
現代は、このように、その国、言語が要請する従来の「一般常識」とは異なる視点を持った人々が存在する、多民族文化・社会が広がっています。今後は多文化社会におけるキラキラネームというものが増えていくのかもしれません。
(注1)http://www.nytud.mta.hu/oszt/nyelvmuvelo/utonevek/index.html(ハンガリー語)
(注2)http://www.kormany.hu/(ハンガリー語)