ことばの疑問

日本語の文章で読点のルールはどうなっていますか

2018.10.31 岩崎拓也

質問

日本語の文章で読点のルールはどうなっていますか。

日本語の文章で読点のルールはどうなっていますか

回答

読点の打ち方には,一定のルールが存在します。それは,1946年に文部省(現在の文部科学省)によって作成された『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)PDFファイル(以下,「句読法案」)と1952年4月4日付け内閣閣甲第16号依命通知として作成された『公用文作成の要領〔公用文改善の趣旨徹底について〕PDFファイル(以下,「公文書作成の要領」)にまとめられています。

たとえば,表記の面について見てみると「句読法案」では,主に横書きに用いるものの中に「,(カンマ)」が出てきており,「公文書作成の要領」でも「句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。」と書かれています(この文章も横書きで書いているので「,(カンマ)」を使用しています)。また,どこに読点を打てばいいのかということについては,「句読法案」に大きく以下の2つのルールが示されています(本当はもっと細かいルールがあるのですが,省略します)。

  • 文の中止にうつ。
  • 副詞的語句の前後にうつ。

この「文の中止にうつ」というのは(1)や(2)のような例です。また,「副詞的語句の前後にうつ」というのは(3)や(4)のような例です。

(1) 朝ごはんを食べて学校に行きました。

(2) あいつは勉強もせず毎日遊んでばかりいる。

(3) 最近流行っているアニメについて友達にどのキャラクターが好きか聞いてみたところやはり主人公の女の子が一番人気があった。

(4) 大学院生だったころある日先生から突然お叱りのメールをもらって朝から泣いてしまった。

この「句読法案」は,「日本語の文法から見た場合,どこに読点を打つとわかりやすいか」という基準で定められているもので,言い換えると「文法上の読点」です。小学校の国語の授業では,この「文法上の読点」の中でも係り受けの関係を示すための読点を中心に教えています。

係り受けを示す読点というのは,次の(5)で打たれている読点です。読点がない(6)では,急いでいる人が「私」なのか「娘」なのかがわかりません。(5)のように「私は」の後に読点があると,「急いでいるのは学校に行く娘である」ということがわかり,「私は」は「見送った」に係っていることがわかります(ちなみに,急いでいるのが「私」の場合,「あわただしく」の直後に読点を打つとわかりやすくなります)。

(5) 私はあわただしく学校に行く娘を見送った。

(6) 私はあわただしく学校に行く娘を見送った。

私は,日本語の係り先の距離と読点の有無の関係を調べてみたことがあります(岩崎拓也 「日本語学習者の作文コーパスから見た読点と助詞の関係性」)。結果は次の図1です。横軸の1〜10は係り先までの距離(文節数)を示していて,縦軸は確率(%)を示しています。たとえば,距離1(直後に係っている)の場合(「私は学生です。」のような文)だと,読点が打たれる確率は1.7%と非常に低いのですが,10語先に係っている場合は,32.4%と高い確率で読点が打たれています。つまり,この右肩上がりのグラフから,読点は係り先が遠いほど打たれやすいとがわかります。

日本語の係り先までの距離と読点の距離の関係
図1 : 読点が打たれる確率(%)

係り先の文節までの距離
このような「文法上の読点」以外にも,読点の打ち方があります。それは,並列や分かち書きを示すため,さらには,強い気持ちを表すため,といった読点の打ち方です。並列を示す読点は,(7)と(8)の文例の下線部がそれに相当します。いずれも,読点の前後の名詞や名詞句が並列の関係にあることがわかると思います。

(7) 私が好きなのは,大魔境鉄人兵団パラレル西遊記です。

(8) 私は,去っていく彼女を,追いかけることも呼び止めることもできなかった。

(7)では,ドラえもんの映画の題名『大魔境』『鉄人兵団』『パラレル西遊記』が並べられています。また,(8)では,「追いかけること」と「呼び止めること」という行動が並べられています。

また,分かち書きの読点は,(9)と(9a),(9b)のような例です。

(9) ここからはきものをぬいではいりなさい。

(9a)ここからはきものをぬいではいりなさい。

(9b)ここからはきものをぬいではいりなさい。

これは有名な例文で(井上ひさし 『私家版 日本語文法』),読点の打つ位置によって「履物(9a)」なのか「着物(9b)」なのかが変わってしまいます。ひらがなとひらがな,カタカナとカタカナ,漢字と漢字のように同じ文字種が続けて書かれるときに読み間違いを防ぐために使用されるのが,この分かち書きを示す読点です。

このように,読点の打ち方には一定のルールが存在しています。ここで「一定」と言うのは,読点のルールはあいまいになりがちだからです。たとえば,(10)(=(1))の例文では,(11)のように読点を打たない人もいます。読点を打つべきかどうかは人によって判断がゆれます。

(10) 朝ごはんを食べて,学校に行きました。

(11) 朝ごはんを食べて学校に行きました。

このような判断のゆれは,ひらがな・カタカナ・漢字といった文字種の選択や文の長さ,文章のジャンルなどが読点を打つかどうかに影響を与えていると考えられています。

皆さんの読点の打ち方はどうでしょうか。読み手が読みやすく,わかりやすい読点になるように,心がけてみてください。

書いた人

岩崎拓也

岩崎拓也

IWASAKI Takuya
いわさき たくや●筑波大学 人文社会系 助教。
1987年熊本生まれ。句読点の使い方(句読法)や括弧などの符号の表記法が専門です。定量的なデータを用いて符号の使用の実態を明らかにしたいと考えています。

参考文献・おすすめ本・サイト

参考文献

読書案内

  • 石黒圭(2009)『よくわかる文章表現の技術〈1〉表現・表記編 (新版)』明治書院
    ※シリーズ本です。この本では、句読点などの表記について書かれています。自分の文章を見直してみたい人にお勧めです。
  • 井上ひさし(1981)『私家版 日本語文法』新潮社
    ※句読点のことだけでなく、日本語の文法全般について書いてわかりやすく書いてあります。
  • 大類雅敏(1990)『文章は、句読点で決まる!』ぎょうせい
    ※題名からわかるように、句読点に焦点をおいて書かれた本です。