ことばの疑問

「それから」「そして」「それで」がどう違うか、その違いを教えてください

2019.02.19 青木優子

質問

小学生の作文を添削していて、接続詞が気になっています。「それから」「そして」「それで」がどう違うか、その違いを教えてください。

「それから」「そして」「それで」はどう違う?

回答

「それから」「そして」「それで」は、一見、同じような文脈で用いられる、ほとんど同じ接続詞のように見えますが、実は違いがあります。特に、似たものを並べる「それから」「そして」と、結果を導く「それで」はタイプが違うように思えます。石黒圭(『文章は接続詞で決まる』pp.56-60)の分類で、「それから」と「そして」が「整理の接続詞」の「並列の接続詞」、「それで」が「論理の接続詞」の「順接の接続詞」に分けられているのは、そうしたタイプの違いを反映しているのでしょう。

四類十種の接続詞
四類十種の接続詞
石黒圭 『文章は接続詞で決まる』(2008)p.57の図を基に作成

まず、同じ「整理の接続詞」に分類される「それから」と「そして」の用法について見ていきます。次の例(1)と(1’)は、有名なロシア民話の『おおきなかぶ』の一節です。どちらの文が自然に感じられるでしょうか。

(1)おじいさんがカブを引っぱって、おばあさんがおじいさんを引っぱって、孫がおばあさんを引っぱって、犬が孫を引っぱって、それから猫が犬を引っぱって、それからネズミが猫を引っぱって…。

(1’)おじいさんがカブを引っぱって、おばあさんがおじいさんを引っぱって、孫がおばあさんを引っぱって、犬が孫を引っぱって、そして猫が犬を引っぱって、そしてネズミが猫を引っぱって…。

「それから」と「そして」は、どちらも「並列の接続詞」ですが、等質のものを並列する際には、「それから」が使われます。「それから」で結ばれる前後の情報は軽重がないため、「それから」は複数重ねて使用することもできます。

一方、「そして」は、「そうして」の縮約形で、「そう」と「して」から成りますが、「そう」が引き受けた前の文脈の帰結を後ろで述べる際に用います。そのため、「そして」の前後の文脈は等質のものではなく、「そして」の後ろにより重要な内容が書かれるので、「そして」の複数使用は困難です。

例(1)と(1’)では、「猫」や「ネズミ」だけが特に重要な登場人物ではなく、等質の登場人物が並列されていると考えられるため、「それから」を使うのが自然です。

「おおきなかぶ」イラスト

次に、時間的な並列を表す例を見てみます。次の(2)では、連続する2文に「それから」と「そして」が使われていますが、この2つの接続詞は入れ換えられるでしょうか。

(2)① 彼らは部屋に入るとコートを脱ぎ、畳んで補助椅子の上に置き、それから僕をスチール製の事務椅子に座らせた。② そして僕の向かいに漁師が座った。

村上春樹(著) 『ダンス・ダンス・ダンス(上)』講談社

(2’)① 彼らは部屋に入るとコートを脱ぎ、畳んで補助椅子の上に置き、そして僕をスチール製の事務椅子に座らせた。② それから僕の向かいに漁師が座った。

(2)と(2’)は、「それから」と「そして」を入れ換えても意味が通じないことはありません。しかし、入れ換えることで「僕」の気持ちはやや変わると考えられます。「それから」は、「それ」と「から」から成り、前後の文脈の時間的な関係を表します。「そして」は、上記の通り、「そう」と「して」から成ります。「それから」の「から」が時間的な区切りを明示するのに対し、「そうして」の「して」は連続性を持つため、(2)は、文①と文②が一連の動作の連続性を持ち、文②が文①の帰着点であると感じられます。つまり、「コートを脱ぎ」「畳んで補助椅子の上に置き」「僕をスチール製の事務椅子に座らせた」のは、「僕の向かいに漁師が座った」という文②を説明するための前置きであると読めます。一方、(2’)は文①の「コートを脱ぎ」「畳んで補助椅子の上に置き」という動作の帰着が、文①の「僕をスチール製の事務椅子に座らせた」という3つ目の動作であるため、文②の「漁師が座った」という動作には、独立性が感じられます。

続いて、「論理の接続詞」の「それで」を見てみます。「それで」は「順接の接続詞」で、前に述べたことが原因で後ろに述べる結果になる場合に使われます。次の(3)の「それで」は、「それから」や「そして」に置き換えることが可能でしょうか。

(3)① すごく弱い光よ。② ずっと奥の方から洩れてくる蠟燭の光みたいなの。③ それで私、誰かが蠟燭をみつけて、それをつけてるんだなと思ったわけ。

村上春樹(著) 『ダンス・ダンス・ダンス(上)』講談社

(3’)① すごく弱い光よ。② ずっと奥の方から洩れてくる蠟燭の光みたいなの。③ それから/そして私、誰かが蠟燭をみつけて、それをつけてるんだなと思ったわけ。

例(3)と(3’)は、文①と②で、話し手が見た状況を説明し、文③で、それを見た私は「誰かが蠟燭をみつけて、それをつけてるんだなと思った」という結果を述べています。文①・②と文③は、原因と結果という因果関係にあるため、「論理の接続詞」である「それで」が用いられています。「それから」や「そして」は「整理の接続詞」で、前後の事柄を並べてつなぐ働きをしますが、因果関係を積極的に示す働きはないため、例(3)で用いると不自然になります。もちろん、並列関係と因果関係、どちらに解釈しても問題ない場合にはどれも使えます。例えば(4)のようなものです。

(4)テーブルの上に赤ワインのボトルが置いてある。それから/そして/それでワイングラスが二つ置かれている。

書いた人

青木優子

青木優子

AOKI Yuko
あおき ゆうこ●国立国語研究所 日本語教育研究領域 プロジェクト非常勤研究員。
文章を構成する様々なサイズの「まとまり」に関心があります。サイズの異なるまとまりを読み手はどのように認識するのか、また、文章を書く際に、どのようにまとまりを作ったらわかりやすい文章になるのかについて研究しています。

参考文献・おすすめ本・サイト

  • 石黒圭(2008)『文章は接続詞で決まる』光文社新書
  • 石黒圭(2016)『書きたいことがすらすら書ける!「接続詞」の技術』実務教育出版