ことばの波止場

Vol. 1 (創刊号 2017年3月発行)

著書紹介 : 『色葉字類抄』の研究

藤本灯

勉誠出版 2016年3月

『色葉字類抄』の研究表紙
表紙

国語資料研究において,諸本研究と明らかにすべく,古記録をはじめとする出典研究は対象資料の性格を見極める上で重要な方法である。しかし,その方法だけで国語資料の性格や価値,さらには国語史研究を進めることはできない。ある国語資料が現在の国語史研究に有益としても,当該の資料が作られた時の目的があったはずである。『色葉字類抄』はそもそも何を目的に作られたのか。この根本的課題に挑戦したのが藤本氏の近著である。平安末期成立のいろは引きの国語辞書である『色葉字類抄』は,先学の研究により,変体漢文で書かれた古記録の言語,すなわち記録語との関連が論じられていたが,藤本氏はその実質を明らかにすべく,古記録をはじめとする変体漢文資料,漢文訓読資料,和文資料等,さまざまな資料を調査・分析し,『色葉字類抄』が有する潜在的なポテンシャルを複合的かつ総合的な手法を用いて最大限に引き出そうとする。記録語の採録は『色葉字類抄』編纂の目的のひとつだが,それにとどまらない多様なニーズに応えようとする編纂の意図があるはずである。その多様なニーズを,藤本氏は「書記需要」という概念を設定して理論化しようとする。昨今,言語資源研究が盛んだが,その方法論にも貢献し得る著作と言えよう。

▶池田証寿(北海道大学)