ことばの波止場

Vol. 1 (創刊号 2017年3月発行)

著書紹介 : ことばの地理学 ―方言はなぜそこにあるのか―

大西拓一郎

大修館書店 2016年8月

ことばの地理学 ―方言はなぜそこにあるのか―
『ことばの地理学 ―方言はなぜそこにあるのか―』書影

この本を著者から頂戴したとき、一読してショックを受けた。方言周圏論の記念碑とも言うべき柳田国男著『蝸牛考』の解釈も、北前船が方言を運んだという通説もバッサリと切り捨てられている。

周圏論批判に関しては、著者が学会発表の席でたびたび自説を展開し、そのたびに出席者から批判的質問を受けている。しかし、「同じ場所が繰り返し言語変化の出発点になることは、きわめてまれではないか」(181ページ)のような、今後の議論の対象になりうる指摘が随所に見られることは重要である。

『日本言語地図』にはさまざまな周圏分布が見られることを柴田武ほか多くの研究者が指摘している。著者はそれらの分布についてはどう考えているのだろうか。

故徳川宗賢氏は、「私には他人の論文を批判する発表が多い」と言っておられたが、学問は過去の成果を批判しつつ発展するものである。本書は方言研究界に新風を吹き込む著書と言えよう。著者のラジカルな説に賛否両論が巻き起こることを期待したい。

そのほか、方言学でよく話題にされるトピックスを平易な文章で解説しており、読者の興味を惹きつける。

参考文献も豊富で、方言学を専攻する研究者にも学習者にも便利である。

▶佐藤亮一(国立国語研究所名誉所員)