ことばの波止場

Vol. 1 (創刊号 2017年3月発行)

著書紹介 : 語彙力を鍛える 量と質を高めるトレーニング

石黒圭

光文社新書 2016年5月

語彙力を鍛える 量と質を高めるトレーニング 表紙
『語彙力を鍛える 量と質を高めるトレーニング』書影

語彙力=語彙の量(豊富な語彙知識)×語彙の質(精度の高い語彙使用)と定義し、語の運用の重要性を説いたことがこの本の肝です。

検定ビジネスの根幹をなす、上級は圧倒的な量、という昨今の“量マッチョ主義”に確かな警鐘を鳴らす一冊であるとともに、ただ「記憶する」ことだけが量を獲得していくものでもない、ということを知るにも良い一冊です。

たとえば、上位語と下位語という概念であったり、類義や対義以外にも語種や語構成など、ひとつのことばが全体のなかのどこにあるのかをマッピングする思考を、平易な言葉で説明していきます。言葉が整然と、三次元的に位置づけられていきます。自然とこれまでの日本語学の成果も入ってくるようになっているところは、無知な私には頭の霧が晴れていくよう!日本語学の良き入門書でもあるかもしれません。

コロケーションの情報やオノマトペ、多義語など運用する際になにを起点として語彙を選択するかという「表現」面と、受け手がどの表現を起点に読むかという「理解」面を、どの節でも丁寧に分けて考察しているのも大事なポイントです。専門家でも一緒くたに語ってしまいがちな部分です。

石黒さんの関心のある、野球や将棋などの身近な用例引用なども読んでいて楽しいです。そこまでチェックしてるの!?とツッコミながら読めます。

▶サンキュータツオ(一橋大学)